小悪魔の本音

「なー、トッティ」
「ん? なーに?」
 視線はスマホから外さずに返事をする末弟、松野トド松。
 そんな弟に、おそ松は頬を膨らませて手からスマホを奪い取った。
「あ、ちょっと! なにすんの!」
 取り戻そうと手を伸ばすトド松を、器用に寝転がりながら避けるおそ松。画面も見ずに電源を落として、トド松の方に向き直る。
「トッティってば、いっつもスマホばっかでさー。たまには兄ちゃんにも構えよー」
 真正面からうざい絡みをしてくる長男に、トド松は呆れたように座り直した。
「おそ松兄さんって、本当にうっとおしいよね」
 あまりにもドライな発言に、ショックを受けた表情で泣き崩れる(嘘泣き)おそ松。
「っていうか、俺だけじゃないからな! お前があまりにも兄を蔑ろにしてるって、皆言ってるから!」
「おそ松兄さん、蔑ろって日本語知ってたんだね」
「あああ、末弟に馬鹿にされてる!」
 じたばたと床で暴れるおそ松に、トド松は取り返したスマホを机に置いて頬杖をついた。
「そもそもさ、こんな真昼間から家でごろごろしてる兄さんたちのことなんてねぇ~」
 あざとい表情で困ったように笑うトド松に、「言っとくけどブーメランだからな」とツッコミを入れておそ松も頬杖をついた。
「僕は良いの、可愛いから」
 ウインクする姿は彼が酷評する次男の痛さを彷彿させるが、カラ松と違って様になっているのは愛嬌の成せる技だろうか。
「そういえば、他の兄さんたちは?」
「カラ松は散歩、チョロ松はアイドルのライブ、一松は猫集め、十四松は野球。そんで、俺は今からパチンコ」
 トド松に構ってもらうことは諦めたらしいおそ松が、尻ポケットに財布をねじ込みながら答える。さして興味も無さげに、トド松はまたスマホをいじり始めた。

 おそ松が出かけて一人になった部屋で、唐突にトド松のスマホに着信が入った。
「もしもし~」
『あ、トド松くん?』
 電話の相手は、ついこの間知り合ったばかりの女の子だった。今度カフェ巡りに行こうとのお誘いに、二つ返事でオーケーを出す。
 しばらく甘味トークで盛り上がったところで、ふと女の子がある話題を持ち出した。
『そういえば、トド松くんって六つ子なんだよね? 確か、トド松くんが一番下で』
 トド松にとってはあまり好ましくない話題に、彼は苦笑いで肯定した。
「まぁ、弟って言っても、皆同い年なんだけどね。それに、一番精神年齢が高いのは僕だから」
 冗談混じりに笑うトド松に、女の子も一緒になって笑う。
 けれど、
『弟にそんなこと言われちゃうなんて、頼りないお兄ちゃんなんだね~』
 女の子の何気ない一言に、笑っていたトド松の声が止まった。
 それに気づいていないらしい女の子は、上機嫌のまま他愛のない会話を続けて、しばらくしてキリのいいところで通話を終えた。
「……」

 切れた電話の画面を見ながら、トド松は自然と呟いていた。
「……別に、兄さんたちの良いとこなんて、僕だけが知ってれば良いし」
 おそ松兄さんは馬鹿だけど、長男ゆえの安心感がある。
 カラ松兄さんはイタイけど、誰より優しさを持っている。
 チョロ松兄さんはダサいけど、実は一番しっかりしてて。
 一松兄さんは病んでる猫バカだけど、本当は心配性で。
 十四松兄さんは変わってるけど、兄弟のことを大事にしてくれて。
「……何も知らないくせに。兄さんたちの悪口言って良いのは、僕だけなんだから」
 そのとき。
 部屋の向こうから、ガタガタっとすごい音がした。
「な、なに?」
 思わずビクッとして、廊下の方を見やる。恐る恐る部屋から出てみると、そこには。
「……っ」
 顔を真っ赤にして硬直する、五人の兄たちがいた。
 頬を真っ赤に染めたトド松に、同じく赤面しているおそ松がだははと笑って言った。
「いや~、さっすが俺たちの弟だよね」
「なにが? ばっかじゃないの!」
 五人の兄が正面から弟の本音を聞ける日は、まだ遠い。
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