星に願いを


 女の子とのデートから帰ってきたトド松は、庭先に見慣れないものを見つけて足を止めた。
「なにしてんの?」
「おー、おかえりトッティ」
 塀に立てかけられているのは、見事な竹だった。その下にはトド松以外の五人が集まっていて、細長い折り紙とマジックペンが用意されている。
 それを見て、トド松は思い出したように声をあげた。
「ああ、今日、七夕だったね。っていうか、この竹どうしたの」
 トド松の質問に、珍しく十四松が答える。
「父さんが近所の人からもらってきたー! ほら、トッティもお願い書こう!」
 短冊とペンを手渡され、トド松は頬を掻く。
「うーん、急に言われてもなぁ……兄さんたちは何を書いたの?」
 見ると、笹の葉の先ですでに五色の短冊が揺れている。参考にしようと一つ一つ裏返してみると。
『パチンコで勝てますように』
 赤い短冊。恐らくおそ松の物だろう。長男らしいと言えば、長男らしい。
『新しい革ジャンが欲しい』
 青い短冊。カラ松は七夕をクリスマスと間違えているのではないだろうか。
『就職できますように』
 緑の短冊。チョロ松はある意味予想通り過ぎた。
「緑の笹に緑の短冊って目立たないね」
「ほっとけ!」
 とりあえず思ったことを言ってみたら怒られた。気を取り直して、次の短冊を見る。
『猫になりたい』
 紫の短冊。一松の願いに関しては半分叶っているような気もする。
『やきう! 野球!』
 黄の短冊。簡潔な十四松の願いは織姫と彦星に届くのだろうか。
 全員分の短冊を見たところで、参考にできるようなものは一つもない。自分は何を書こうかと考え始めたところで、トド松はふとひらめいた。
『彼女が出来ますように』
「そもそも七夕ってさ、恋人同士が一年に一度だけ会える逢瀬の日なんだよ? ま、兄さんたちには縁の無い話だけどね~」
 笑いながら桃色の短冊を笹に結ぶトド松の背後で、おそ松がひねた目をする。
「てかトッティ、今日デートだったんだよね? その子は?」
 恋愛にまで発展しないのかと暗に問うおそ松に、短冊を取り付けるトド松の手が止まった。その様子から察したらしいカラ松が、トド松の肩にポンと手を置く。
「落ち込むことは無いぞ、ブラザー。いつかお前にも、お前だけの織姫が現れブフォッ!」
「うざい」
 一松が飛ばしたサンダルを顔面に受けて倒れ伏すカラ松。
「そもそもさ、あれって彼女が出来て浮かれた彦星が仕事サボりだしたから、父さんが怒って二人を引き離したんだよね。そんなので、一年に一度の逢瀬~なんて悲恋アピールされてもねぇ……自業自得でしょ」
 やけに詳しく語る一松に、おそ松が過敏に反応する。
「はぁ!? 七夕ってそんなんで出来てんの⁉ マジないわー、萎えたわー」
 そして彼は自分の短冊を笹から引き千切ると、裏面にペンを走らせた。
『リア充爆発しろ』
「「「「「……」」」」」
 それを見た五人の弟たちも、無言で自分の短冊を引き千切る。
『リア充デッド・オブ・ザ・デッド』
『ケツ毛燃えろ』
『来世来世』
『スリーアウトチェンジ!』
『全カップル破局しろ』
 全員が書き終え無残にもぼろぼろになった自分の短冊を握りしめて見上げる夜空は、輝く星があまりにも綺麗で。
「……こんなんだから、僕たち彼女できないんだよね」
「「「「「知ってる~」」」」」
 チョロ松の呟きに、童貞新品ブラザーズの声が重なって響いた。
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