裏のない幸福
いつもより早めに起きた今朝のニュース番組は、加州たちが普段見ることのない時間帯の内容を放送していた。
『一日の始まりに! 今日の星座占い~!』
若い女性キャスターが朗らかな笑顔で告げると同時に、画面いっぱいにコミカルで色とりどりのイラストが現れる。
羊や山羊といった動物、女神にも似た女性、瓜二つの姿をした二人の子ども……身支度を整えながらテレビを見ていた加州は、同じく一日の準備をしている堀川へ首を傾げて問いかけた。
「ねぇ、堀川。星座占いだって。知ってる?」
出陣用の戦装束に着替えていた堀川は、「ううん、知らない」と答えて首元のリボンタイを結ぶと、加州の視線につられるようにテレビ画面へと目を向ける。
「占い……星座占いって初めて聞いたなぁ。空にある星の星座のことかな?」
二人が不思議そうに見つめる画面の中で、女性キャスターは満面の笑みを浮かべながら、さまざまなイラストと共に『今日の運勢』を語っている。
『今日、いちばんラッキーなのは……牡羊座のあなた! 特に勉強運や仕事運が絶好調! 悩んでいる物事があっさりと解決しちゃうかも? ラッキーカラーは雪の様な白色~』
キャスターの口から飛び出す耳慣れない単語に戸惑っていると、にこにこ笑顔の彼女は一転、打って変わって残念そうな顔つきになった。彼女の背景も暗い青色になり、妙な物悲しさを漂わせている。
『最下位は……ごめんなさ~い、水瓶座のあなた! 今日はやることなすことが裏目に出て、思い通りにならない一日かも。ラッキーカラーは心を落ち着ける緑色!』
画面は再び明るい調子に切り替わり、イラストに囲まれた女性は華やかな笑顔を見せながら視聴者に手を振った。
『それでは今日も頑張っていきましょう~!』
明るい声を響かせ、次の瞬間には朝一番のニュースが流れ出す。加州と堀川が普段目にしている内容の番組だ。
三人の男性と二人の女性が並んで笑みを浮かべ、今日の日付を言って視聴者に挨拶する。それからしばらくは、和気藹々としたキャスター同士の世間話が流れた。
「……終わっちゃった。なんだったんだろ、あれ」
身支度の仕上げに赤い襟巻を首に巻いた加州が呟いて、堀川はあまり気に留めていない様子で口を開いた。
「まあ、僕たちに普通の人間みたいな占いはなかなか当てはまらないからね。姓名判断とかも難しいし……出来て御神籤とか辻占くらいじゃないかな」
「えー、つまんないの」
少し不満げに頬を膨らませた加州は、ふと面白いことを思いついたというような笑みを浮かべて背後から堀川に抱き着いた。
唐突に抱きすくめられた堀川は、苦笑しながらも頬を赤く染めて加州の髪を優しく撫でる。
「ちょっと、急にどうしたの」
くすくすと笑い、堀川の耳朶をくすぐりながら、加州は冗談めかした声音でリボンタイをもてあそんだ。
「今日の運勢第一位は……刀派堀川の脇差のあなた~! 戦でばんばん活躍して、誉も誰よりたくさん取っちゃうかも? ラッキーカラーは赤色、なんてね」
そう言って身体を離し、自分の襟巻を揺らして笑う加州へ、今度は堀川の方から手を伸ばされる。
手甲から伸びる白い指が、加州の顎を掴んでゆっくりと引き寄せる。さして強い力ではないのに、加州はまるで見えない力に引っ張られるようにして、堀川へと吸い寄せられた。
二人の唇が重なり、すぐに離れて堀川が悪戯っぽい笑みを見せる。
「……ここにも赤色あったから、ちゅーしちゃった。ふふ、本当に元気出たよ。今日の出陣も頑張るね」
加州の唇をなぞって笑う堀川に、加州の顔が綺麗な朱色に染まった。
赤い瞳を恥ずかしそうに何度も瞬かせ、照れを隠すように再び堀川に抱き着いて肩に顔を埋める。
「もー……恥ずかしいじゃん」
言葉とは裏腹に、声は嬉しそうに跳ねている。
堀川はそんな加州の頭を撫でながら、大きな瞳を細めて心から幸せそうに微笑んだ。
「清光くんがいれば、僕は毎日充分に幸せだからね」
「占うまでもないってやつ? ……そんなの、俺だって一緒だし」
言うが早いか、加州はまだ少し赤い顔で素早く堀川の唇にキスをする。
不意を突かれて驚いた表情の堀川は、先ほどよりも更に幸福な顔で破顔した。
二人の笑顔は溶けるように混ざり合い、出陣前の心をほぐすように、穏やかな時間が流れていった。
『一日の始まりに! 今日の星座占い~!』
若い女性キャスターが朗らかな笑顔で告げると同時に、画面いっぱいにコミカルで色とりどりのイラストが現れる。
羊や山羊といった動物、女神にも似た女性、瓜二つの姿をした二人の子ども……身支度を整えながらテレビを見ていた加州は、同じく一日の準備をしている堀川へ首を傾げて問いかけた。
「ねぇ、堀川。星座占いだって。知ってる?」
出陣用の戦装束に着替えていた堀川は、「ううん、知らない」と答えて首元のリボンタイを結ぶと、加州の視線につられるようにテレビ画面へと目を向ける。
「占い……星座占いって初めて聞いたなぁ。空にある星の星座のことかな?」
二人が不思議そうに見つめる画面の中で、女性キャスターは満面の笑みを浮かべながら、さまざまなイラストと共に『今日の運勢』を語っている。
『今日、いちばんラッキーなのは……牡羊座のあなた! 特に勉強運や仕事運が絶好調! 悩んでいる物事があっさりと解決しちゃうかも? ラッキーカラーは雪の様な白色~』
キャスターの口から飛び出す耳慣れない単語に戸惑っていると、にこにこ笑顔の彼女は一転、打って変わって残念そうな顔つきになった。彼女の背景も暗い青色になり、妙な物悲しさを漂わせている。
『最下位は……ごめんなさ~い、水瓶座のあなた! 今日はやることなすことが裏目に出て、思い通りにならない一日かも。ラッキーカラーは心を落ち着ける緑色!』
画面は再び明るい調子に切り替わり、イラストに囲まれた女性は華やかな笑顔を見せながら視聴者に手を振った。
『それでは今日も頑張っていきましょう~!』
明るい声を響かせ、次の瞬間には朝一番のニュースが流れ出す。加州と堀川が普段目にしている内容の番組だ。
三人の男性と二人の女性が並んで笑みを浮かべ、今日の日付を言って視聴者に挨拶する。それからしばらくは、和気藹々としたキャスター同士の世間話が流れた。
「……終わっちゃった。なんだったんだろ、あれ」
身支度の仕上げに赤い襟巻を首に巻いた加州が呟いて、堀川はあまり気に留めていない様子で口を開いた。
「まあ、僕たちに普通の人間みたいな占いはなかなか当てはまらないからね。姓名判断とかも難しいし……出来て御神籤とか辻占くらいじゃないかな」
「えー、つまんないの」
少し不満げに頬を膨らませた加州は、ふと面白いことを思いついたというような笑みを浮かべて背後から堀川に抱き着いた。
唐突に抱きすくめられた堀川は、苦笑しながらも頬を赤く染めて加州の髪を優しく撫でる。
「ちょっと、急にどうしたの」
くすくすと笑い、堀川の耳朶をくすぐりながら、加州は冗談めかした声音でリボンタイをもてあそんだ。
「今日の運勢第一位は……刀派堀川の脇差のあなた~! 戦でばんばん活躍して、誉も誰よりたくさん取っちゃうかも? ラッキーカラーは赤色、なんてね」
そう言って身体を離し、自分の襟巻を揺らして笑う加州へ、今度は堀川の方から手を伸ばされる。
手甲から伸びる白い指が、加州の顎を掴んでゆっくりと引き寄せる。さして強い力ではないのに、加州はまるで見えない力に引っ張られるようにして、堀川へと吸い寄せられた。
二人の唇が重なり、すぐに離れて堀川が悪戯っぽい笑みを見せる。
「……ここにも赤色あったから、ちゅーしちゃった。ふふ、本当に元気出たよ。今日の出陣も頑張るね」
加州の唇をなぞって笑う堀川に、加州の顔が綺麗な朱色に染まった。
赤い瞳を恥ずかしそうに何度も瞬かせ、照れを隠すように再び堀川に抱き着いて肩に顔を埋める。
「もー……恥ずかしいじゃん」
言葉とは裏腹に、声は嬉しそうに跳ねている。
堀川はそんな加州の頭を撫でながら、大きな瞳を細めて心から幸せそうに微笑んだ。
「清光くんがいれば、僕は毎日充分に幸せだからね」
「占うまでもないってやつ? ……そんなの、俺だって一緒だし」
言うが早いか、加州はまだ少し赤い顔で素早く堀川の唇にキスをする。
不意を突かれて驚いた表情の堀川は、先ほどよりも更に幸福な顔で破顔した。
二人の笑顔は溶けるように混ざり合い、出陣前の心をほぐすように、穏やかな時間が流れていった。
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