Under the umbrella
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「名無し!」
どこからか私を呼ぶ声がする。
この声はもしかして…いや、もしかしなくても、私の大好きな声。
今日一番の気合を入れて振り向く。
そこには予想どおり、傘をさした真斗くんがいた。
「何でいるの!?」
「そこで先ほどまで収録だったのだ。」
自然な流れで私を傘に入れてくれる。
「ありがとう。」
真斗くんと相合傘。予想もしたことないような展開に、ドキドキする。
「いいんだ。あのまま帰っていたら、風邪を引いてしまうぞ。女性が体を冷やしてはならん。」
「だよ…ね。でも、歩きたい気分だったんだ。」
「そうか。まぁ、そういうところがお前らしい。」
真斗くんが私に微笑む。
不意打ちの笑顔に、胸が高鳴る。
こんな幸せな出来事があるなんて、今日はついてる。
私たちは寮への道を少しずつ歩き始めた。
ふと横を見ると、真斗くんの肩が傘からはみ出して、濡れてしまっている。
傘は大幅に私の方に傾いている。
「真斗くん、濡れてる。傘もうちょっとそっちに傾けないと。」
傘を持っている真斗くんの手に自分の手を重ねて、真斗くんの方へ傾ける。
真斗くんの手は意外にも冷たくて、触れたときピクッと反応した。
「真斗くん手冷たい…。真斗くんこそ体冷やしたらダメだよ。」
そう言いながら隣の真斗くんを見ると、重ねられた手を見て少し頬を染めていた。
「あっ、ご、ごめん」
私は咄嗟に手を離す。
何だか恥ずかしくて下を向いていると、突然肩に真斗くんの手が置かれた。
そしてぎゅっと、真斗くんの体の方に肩を引き寄せられる。
引き寄せられた方とは反対側の肩が、隣の真斗くんの胸板あたりにぴったりとくっついている。
「こうした方が…濡れないだろう」
突然の出来事に、私の思考はショート寸前。
それからしばらく沈黙が続いた。
寮がある広大な敷地の入り口を通る。
ここをまっすぐ行けば、もう直ぐ着いてしまう。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
「名無し…少し遠回りしていかないか。」
「えっ…あ、う、うん!」
私の思いが通じたように、まだ一緒にいられることになった。
「悪いな…雨の中」
「ううん、全然大丈夫」
真斗くんと肩を並べて歩く。
かなりの身長差に並んでみて初めて気づく。
肩幅も大きい。
新たな気づき1つ1つに、胸が高鳴る。
せっかくの状況なんだから、何か話さなきゃ。
「真斗くんと2人って、あんまり今までなかったよね。」
「あぁ、そうだな。皆で集まったりすることが多かったからな。」
学園の頃から仲は良かったけど、2人きりは初めてだ。
そのとき、急に雨が強くなった。
地面を雨が叩きつける。
「強くなってきちゃったね」
しかし真斗くんは雨の音で聞きとれなかったようで、聞き返そうとして自然に顔を近づける。
「すまない、聞こえなかった」
私の背丈に合わせて真斗くんが言った。
顔が、近い。
「あ、雨、強くなってきたね」
真斗くんの耳に近づいて、直接届くように話す。
その間もバケツをひっくり返したようにバシバシと降り続ける雨。
顔の近さに顔が紅くなってしまう。
真斗くんも、同じように頬を染める。
こんなの、心臓もたない。
「少し、雨宿りして行こう。」
真斗くんが私の耳に囁いた。
聞こえるようにそうしたのだろうけど、私には逆効果。
ダイレクトに真斗くんのいい声が耳に届く。
さらに顔が熱くなる。
再び歩き出した私たちは、時計塔を見つけ、下のベンチで雨宿りすることにした。
再び沈黙が続く。
しかし雨の音のおかげで、そんなに気まずくはない。
雨を眺める私たち。
「名無し」
急に真斗くんが私の名前を呼ぶ。
「あの…。そ、そうだ、寒くはないか?」
何かを言おうとしたのに、別の話にすり替えた?
何を言おうとしたのか少し気になる。
「大丈夫だよ」
真斗くんは確認するように私を見ると、驚いて顔を赤くする。
「どどど、どうしたの!?」
すると真斗くんは私に近づき、自分の上着を脱ぐと、私の肩にかけた。
「あ、ありがとう」
大丈夫だと言ったのに、なぜだろうと疑問を持っていると
真斗くんが耳元で囁いた。
「その…シャツが濡れてしまっている。」
驚いて咄嗟に自分のシャツを見ると、案の定下着が少しだけ透けていた。
「他の男だったら、危なかっただろう」
もう、今までにないくらい心臓がうるさい。
恥ずかしさと、隠している気持ちが混ざり合って…頭がショートしそう。
「名無し」
ふと、再び名前を呼ばれる。
でもさっきとは違って、まっすぐな声。
顔を上げると、何かを決心したような真斗くん。
「ずっと、お前のことが…好きだった。お前に告げることはないと思っていたが、もう隠しきれない。」
嘘…真斗くんが…?
まっすぐな目に射抜かれる。
「断るなら、思いっきり振ってくれ。そうでないと諦めがつかん。」
振る…?そんなこと、するわけない。
だって、私の好きな人は、この人なんだもん。
「そんなこと…するわけない。私…」
言わなきゃ。真斗くんははっきり伝えてくれたんだから。
「私、真斗くんのことがずっと好きだった」
まっすぐ、真斗くんを見つめる。
真斗くんは目を見開き、驚いている。
「そ、それは本当か?俺は、ずっとお前に片恋を…」
「私も、ずっと片思いしてた。だから、今すごくびっくりしてる。」
「俺は…どうすればいい。これ以上の喜びはない…」
真斗くんは少し何かを考えてから、私に向き直って距離を詰めた。
「抱きしめても…よいか?」
低く響く声。
「うん…」
ぎゅっと、優しく、強く、抱きしめられる。
真斗くんの思いを、身体中で受け止める。
私の思いも伝わるようにと、ぎゅっと抱きついた。
「好き…」
気づけば口にしていた。
「あぁ、俺も好きだ。お前を、何よりも、誰よりも大切にする。本当に、ありがとう…」
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