強くなった貴方
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「ちょっとっ…待ってください…」
那月が息を切らしながら、大きな手で私の腕を掴んだ。
「ねぇ…どうして逃げるのっ…」
掴んだ腕をそのままに、那月は問いかけてくる。
那月でも息切れしてるのだから、私は尚更だ。
必死に乱れる息を整えようとする。
ここで振り向いたら
こんなに近くで貴方の顔を見たら
きっとまたあの感情が蘇ってしまう。
「名無しちゃん」
だめ、呼ばないで
息切れから落ち着き始めた心臓が、再び別の原因で高鳴る。
「聞きたいことがたくさんあるんです。2年前のこと、入学してからのこと。」
ああ、この声。
私の好きな、優しい声。
決して攻める口調ではなく、私を安心させる優しい声。
「どうして何も言わず、行っちゃったの?せっかく再会できたのに、なんでいつも僕を避けるの…?」
この想いを伝えてしまいたい。
でもそれをしたらきっと、本当の別れになってしまう。
振られて気まずくなるより、嫌われた方がマシだ。
私の腕を掴む那月の手は、少し緩んでいる。
今なら、逃げられるかも。
最低かもしれないけど、弱い私にはその選択肢しか残されていなかった。
那月の手から、腕をすっと抜く。
しかし、その瞬間私の視界はぐるんと回り、気づいた時には那月の胸の中にいた。
「逃がしません。再会できたのに…こんなに…こんなに貴方を想っているのに…。」
え…?
今、なんて?
私を抱きしめる那月の手の力が強くなる。
「ずっと、大好きでした…なのに、貴方は突然いなくなって…。それから毎日何も手につかなくて。」
初めて聞く、那月の想い。
驚きで言葉が出ない。
「何度も後悔しました。貴方に想いを伝えなかったこと、何をしようにももう遅いということ…。でも_______
どうしても、忘れることはできなかったんです。いつまでも落ち込んでいてはいけない。貴方にもう一度会いたい。そして次に貴方に会えた時、恥ずかしくない自分になろう、って」
那月が少し離れ、私を見つめる。
顔、やっとちゃんと見れた。
「名無しちゃん、話してくれますか」
私は頷いて、
那月のことが好きだったこと、
関係が壊れるのが怖かったこと、
忘れようとしたこと、全て話した。
「そう、だったんですか…」
那月は複雑な顔をして、私の頬に手を添えた。
「辛い想いをさせてごめんなさい。でもこれからは、ずっと一緒だから…」
「うん…」
那月の透き通った目に射抜かれる。
「名無し、愛しています」
那月は私に目線の高さを合わせると、ゆっくりとキスが降ってきた。
夢に見たような瞬間
偶然に偶然が重なって、私たちはここにいる。
すごく遠回りだけど、またこうして巡り会えた。
「那月、だいすき」
那月は頬を染めながら、私の大好きな笑顔で微笑んだ。
「そろそろ、戻りましょうか。」
夕日が窓から差し込んでいる。もうそんな時間か…。
「あれ、ここどこだっけ…」
必死に那月から逃げてたから、全く知らない場所に来ていた。
「大丈夫、こっちです。」
那月は私の手を取って、しっかりとした足取りで歩き出す。
貴方は、すごく強くなっていた。
end
2016.1.31
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