操り人形
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「一緒にいる時くらい、楽しそうに微笑んで頂けませんか」
耳元に滑り込んでくる言葉と吐息に虫酸が走る
「私は貴女という最高の女性を伴侶に出来て幸せだと言うのに」
そうでしょうとも
貴方にはない、私の家の貴族の力が欲しかったのだから
プレイボーイで富に満ち溢れた貴方に足りないのは、地位だけ
貴方にとって私は最高の人形でしょうね
「貴女にとっても、私は最高の伴侶だと思いますが?他に心を惹かれる男性がいなければ」
瞬間、脳裏に鮮やかな赤が思い浮かぶ
「おや、妬けますね。貴女にそんな顔をさせる男性がいるとは」
『ごめんなさい?少し気分が優れないから、夜風に当たってきますわね』
諦めなさいと囁く相手の足をさりげなく踏みつけて庭へと足早に出ていく
息が詰まるこの世界から、少しでも逃れたい
広間から遠く離れて深呼吸する
さやさやと心地よく吹く風に身をさらす
こんな風に自由に風を感じる事はもう出来ないだろう
「今晩は、お嬢さん」
突然、後ろから聞こえた声に勢いよく振り向けば、先程思い浮かんだ鮮やかな赤
数日前が思い浮かぶ
お供つきだが、唯一自由に外出を許される教会への礼拝
その帰りにぶつかった鮮やかな赤い髪に左目の3本の傷痕を持った黒いマントの男
幻かとも思ったが、あの時とは違うマントの下の夜会服に現実だと気付く
「一曲、お相手願えますか?」
恭しく差し出された手に、導かれるようにそっと手を差し出せばグィッと引かれ、胸にぶつかる
空いている手を男の体に回してから気付いた
『貴方、左手が…』
「大事な友人の命の代わりでね」
何て事のないような明るい笑顔に、ドクンと体が反応する
不思議とさっきまで風に乗って届いていた音楽が聞こえない
ゆっくりとワルツを躍りながら、聞こえるのは自分の鼓動だけ
男の顔を見上げながら、このまま時が止まってしまえばいいのにと願う程、感じた事のない心地よい時間
これは自由にさせて下さいと毎日、祈っていた神様からの贈り物?
だとしたら、何て残酷な贈り物なんだろう
私は明日、結婚すると言うのに―――!!
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