空の青
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*ヒロイン死亡ネタ
ぬかるんだ道を、泥を跳ね上げコルは急ぐ。
先ほどまで降っていた雨は上がり、雲の合間から日が差している。青空はコルの目には入らない。早く早くと気ばかり焦る。
◯◯◯。
呼ぶ声に応える声は聞こえない。
痛いとは思わなかった。ただ熱いと感じた。
それから身体の力が抜けた。
◯◯◯の腹に牙を突き立てた野獣は、同行していたモニカが仕留めてくれた。仰向けに倒れた横で、彼女が何か言っていた気がするが欠片も聞こえず、ただ、ああ雨止んだなと思っていた。
雲が晴れて空が見える。
真っ青だ。
あの人の目の色と同じ。
コル。
名前を呼んだつもりだけれど、自分が声を出せていたのか分からない。
「命知らずな戦い方をする。死ぬのが怖くないのか」
「怖いですよ」
王の剣の訓練場、その脇にある休憩室。古びた椅子に座る王の盾の将軍は、面白がるような顔で◯◯◯を見ていた。
立ったままその視線を受け止める。高い位置にある窓から光が差し込んで、コル将軍の瞳の色がはっきり見えた。
綺麗な青だな、と思った。
「◯◯◯、俺の側近にならないか」
二つ返事で了承したのは、あとから幾らでも理由がつけられる。
はじめて「私」を必要としてもらえたから。
新しい環境へ飛び込んでみるのも面白いと思ったから。
心の底では、ただ単純に、この人に惹かれたからだと思う。
雨水を吸った地面は冷たい。泥土の上で、◯◯◯はぼんやり寒さを感じる。こうして死に近づいていくのは、想像していたよりずっと穏やかだ。誰かが何かを言っているが、耳に膜が張ったように聞き取ることが難しい。
晴れて良かった。最後に綺麗なものが見られた。
あの人と話せたらもっと良かったけれど、それは我儘というものだ。
「◯◯◯!」
散漫になっていた意識がはっと外に向いた。
誰かが駆け寄ってきて◯◯◯の身体を抱き寄せる。その人は震えている。震えながら、◯◯◯の顔を覗き込む。空と同じ青い瞳。
良かった、会えた。
「……将軍」
もし自分の方が先に死ぬことになったら、一つだけ伝えておきたいことがあった。きっとそんなに時間は無いだろうから、沢山の言いたいことの中の、いちばんを。
「私、あなたと一緒にいられて、幸せでした」
ぐっと身体に回された手に力がこもった。愛しい人の胸に頬を寄せて、◯◯◯は静かに微笑う。さっきまで寒かったのに今は温かい。
「愛している」
こんなに幸せに死んで良いんだろうか。もう満足だ。最後の最後に、十分なご褒美を貰えた気分だ。
◯◯◯、と彼が名前を呼んだ。返事をしたかったけれど、もう声が出なかった。目の前が暗くなる。それでも感覚は残っている。
身体を包む腕の強さと温かさを、最後まで感じながら◯◯◯の意識は沈んでいった。
終