All I ask of you(あなたに望むこと 改題)
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怖いですよ。口ではそう言いながら挑みかかるような顔をしていて、この女性は闘える人間だ、と思った。
「恐れるのは悪いことではない。自分で乗り越えようとする限りは」
◯◯◯は戸惑っている風だった。
「正直、いま将軍が話してくれたことは、全部は分からなかったです。でも」
肩の力が抜けたように少しだけ笑った。
「将軍に軽蔑されてないなら、いいです」
「今はそれでいい」
完全に温くなったビールを飲み干して、会計を済ませようと店主を呼んだ。
*
街で唯一のモーテルはシングルルームに空きがなく、止むを得ずツインに宿泊することになった。泊りがけの任務の場合、時たまこういう事があるので互いに慣れている。
シャワーを浴びて部屋へ戻ると、先に風呂を済ませた◯◯◯はベッドへ横になっていた。
「起きているのか」
ぱっちりと目を開けて天井を眺めていた◯◯◯が、決まり悪そうな顔をしてコルを見た。
「寝られなくて」
普段なら、コルが風呂を出た頃には既に眠っているのだが。
「お酒飲んで寝ちゃおうと思うんですけど、こういう時ってなかなか酔えないんですよねぇ」
「何か、俺にできることはあるか」
先ほどの様子を見ているので、それは容易に想像がつく。踏み込みすぎかと思うが放っておくのも忍びない。
逡巡するような沈黙の後、手を、とぽつんと◯◯◯が言った。
「繋いでくれますか」
椅子を引き寄せて枕元に座り、シーツの外へ出された手を繋ぐ。くしゃりと頭を撫でると、シャンプーの香りがした。
「これからは遠慮せず言え」
「……はい」
◯◯◯が、手に頬を寄せて目を閉じた。滑らかな感触に年甲斐もなくどきりとする。髪を撫でると表情が緩んだ。
「……将軍」
「なんだ」
「ありがとうございます」
「礼を言われるほどのことはしていない」
彼女の口元に小さく笑みが浮かぶ。安心しきった様子が可愛いと思う。
「……将軍」
「なんだ」
「キスしてください」
とろんとした目で見上げられて、何の試練だ……と胸中ぼやきながら、少し屈んで額に口づける。
「そこじゃなくて」
◯◯◯の言わんとしていることに、コルは本当に理性を試されているのかと思った。
「キスだけで済ませられる自信が無いんだが」
「将軍なら良いです」
「待て」
「将軍が良いです」
咄嗟に言葉に詰まった。
共に仕事をしてきた中で、女性として惹かれた瞬間もある。けれど年齢差があることを踏まえ、あまり深く追求しないでおいた。上司と部下という一線を越えないように、自らを戒めていたのだが。
彼女は、その線を軽々と飛び越えた。
かなわないな。
「もう、一人で寝つけない夜など無いと思え」
コルは◯◯◯の上に覆い被さった。
終