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「動かなくなった奴も出てきてるが、まだ多いな」
「燃料切れか?同士討ちはしているか」
「しているようだ」
顎に手を当ててロキが考え込んだ。結構、様になっていて黙っていればかっこいいのにと思う。まあ、◯◯◯の好みではないが。
「恐らく味方への攻撃を避けるための判別機能が壊れて、目につくものを手当たり次第に攻撃しているんだろう」
「あれってどうやって敵を認識してるの?」
「俺も詳しくは知らない。ヴァーサタイルと宰相が中心になって開発していたからな。ただ視覚、聴覚にあたるセンサーの精度は人間とそう変わらないはずだ」
ロキの指が、鉛筆で描かれた外壁の線をなぞる。
「防衛設備として、基地の外壁上には機銃が配置されている。上から魔導兵を狙って撃てば、破壊と撹乱を両立できるだろう。銃弾を近くからの攻撃と誤認させて、同士討ちを誘発する」
基地に詳しいというのは本当だった。一瞬、流れた不穏な空気も今は消え、誰もが狩りの前の緊張感に満ちている。
「基地の門は開いているのか?中に入った奴は?」
ハンターの一人が手を挙げた。
「門は手動で開けられる。一度、現状を見るために入ったから大体の構造は覚えた」
「では機銃で撹乱する役目はお前に任せる。地上で魔導兵を掃討する奴らを撃たないよう、注意しろ。乱戦になったら掃討班に合流しろ」
さすが准将、命令をする姿は堂に入ったものだ。
「じゃ、行こっか。シガイが出てくると厄介だから、日暮れまでにケリをつけないとね」
散発的に鳴る銃声を背中で聞きながら、◯◯◯とロキは魔導兵のいない場所を選んで基地の奥へ向かう。今のところ、撹乱は上手くいっているようだ。
「おい」
「なに」
背の高いコンテナが並ぶ区域に来たところで、ロキが振り返った。
「さっき、どうしてお前は……」
「さっき?」
何か言い淀む風だが、こちらは何を言いたいのか見当がつかない。
「どうして、俺を庇うような真似をした」
「庇うって……ああ」
妙な雰囲気になるのが嫌で、話の矛先を変えた。そのことか。
「別にそういうつもりじゃないけど。あそこで揉めて、作戦中にあんたが後ろから撃たれでもしたら面倒だし。それだけ」
「だがそれはルシス人からしたら願ったりだろう。帝国が憎いんじゃないのか」
「この話って今しなきゃ駄目?」
何もこんな時間の無い状況で話さなくても良いだろうに。しかしロキは足を止めたまま動かない。◯◯◯は頭をかいた。
「そりゃ憎いけどさあ」
明確な答えを持っているわけではない。そしてそういうことを言葉にするのは、非常に苦手だし面倒くさい。がちゃがちゃという金属がぶつかり合う規則的な音が、やけに耳につく。
「あんたが戦争するって決めたわけじゃないでしょ。私たちは軍人で、命令されたら殺すのが仕事で、それはもう仕方ないっていうか」
何と言えば良いのか、がちゃがちゃ煩いな、と音に邪魔されながらもう少し考える。
「どうせ私も同じことしてるっていうか」
王の剣だった頃、揚陸艇の操縦士を殺した。下士官を殺した。彼らにも国で待つ誰かがいることは考えないようにした。
肉を斬る感触を、骨を断つ感触を、今でも覚えている。
「……そうか」
複雑そうな顔でロキは頷いた。
◯◯◯だって、消された故郷のことを考えれば怒りが湧く。でもそれを特定の誰かに向けるのは、間違っていると思う。
「あんたはどうなの?魔導兵任せにしてても、知り合いが戦死した経験はあるでしょ」
「まあ、そうだ」
「私は移民だけどルシス人だよ。私を憎いと思う?」
ロキは今度こそ、本当に迷う顔になった。
ああ、やっぱり同じなんだ。
国に敵意を向けること、兵隊として人を殺すことと、一個人として誰かを明確に憎むこと、には大きな隔たりがある。
それが正しいことなのか分からないけど、◯◯◯もロキもそうやって生きて、折り合いをつけているのだ。
『俺たちが殺したんじゃない。手足を持たない国の代わりに、俺たちが手を下した。それだけだ』
昔、まだ駆け出しの新兵だった頃、そう言われた。今でも時折、思い出す。
金属の音が更に大きくなった。規則的な、足音のような。
「ロキ!」
ロキが前を見る。魔導アーマーの銃口が火を噴いた。咄嗟に脇へ跳びのき、積み上げられた木箱の後ろへ隠れる。さっきから聞こえていたのはこれの足音だったのか。
「何であれ動いてんの!?」
「自動迎撃モードだ。何かのはずみでスイッチが入ったな」
「そんな気軽にスイッチ入る作りなの?前から思ってたんだけど玩具はちゃんと片付けてから来てよね!」
「ぐっ……返す言葉も無い、が……」
◯◯◯に言い返せないのが悔しいのかギリギリと歯噛みしている。その時、耳元で無線機が音をさせた。
「ーおい、お前らまだか!」
ハンターの怒声に銃声が被さる。向こうも混乱してきたようだ。
「分かってるって!あと少し!」
乱暴に無線を切って、◯◯◯たちを見失って彷徨う鉄の塊を見上げる。あれをハンターたちの方へ向かわせるわけにはいかない。
「おい、あれ相手に一分、稼げるか」
「え、うん出来るけど」
「では予定通りだ」
「了解」
ふっと息を吐いて刀を構えると、魔導アーマーへ向かって飛び出す。銃口がこちらを捉えた。連射を躱し、貨物の壁を蹴って上へ跳ぶ。勢いに任せて振り降ろした刃が鉄製の腕とぶつかる。着地した◯◯◯を踏み潰そうと片足が落ちてくるのを、地面を転がって避けた。起き上がりざま、人間のアキレス腱にあたる部分を斬る。鉄と鋼が擦れあって嫌な音を立てた。
「将軍いてくれたらなあ!」
彼ならもっと容易く鉄を斬れるのに、ぼやきながら魔導アーマーの後ろへ回り込み、もう一度同じ場所へ斬りつける。その時、待っていた音が聞こえた。
チェーンソーが回る音。