あの日の約束
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それだけは絶対に駄目だ。
狙いを定める。手から離れた双剣に身体が引っ張られる。ぐらりと視界が揺れる。目の前に男の背中がある。羽交い締めにしてコルから引き剥がした。
「てめッ、離せこの……っ!」
もがくのを地面に押さえつけて動きを封じ、首を極めて落とす。コルが後ろ手に手錠をかけた。その頬に擦った傷がある。
「怪我してる」
「これぐらい怪我のうちに入らない」
声は平静だが流石に危なかったのだろう、顔はやや青ざめていた。思わず抱きしめた身体は記憶よりも細い。
「……死んじゃうかと思った」
「簡単に殺すなよ」
強張った腕から力が抜けて、少年の手が宥めるように◯◯◯の背中を撫でた。今は年下なのにその仕草はいつものコルそのもので、どんな時でもこの人は、私の好きな人なんだと思う。
「強いからって油断したんでしょ」
「そういうわけじゃないけど……捕まえるのは……殺さないようにするのは、ただ斬るより難しかった」
「ああ、そっか。まだ上手く手加減できないんだね。ごめん、一人で行かせて」
つい、いつもの癖でコルに任せてしまった。傷ついた頬を撫でるとさっと赤みがさして、みるみる顔全体が赤くなる。
「大丈夫?やっぱり痛い?」
「別に、もう平気だ。だから、その……もう少し離れて……」
「え、あ、はい……」
考えてみれば初対面の相手を思いきり抱きしめてしまった。◯◯◯もどぎまぎして身体を離す。ぎくしゃくした空気の中に、場違いな吠え声が響いた。
「……犬?」
コルが怪訝そうに呟く。振り向くといつの間にか屋上へ現れた黒犬が、◯◯◯の顔を見てまた一声吠えた。
「何でこんなところに」
「私、戻らないと」
アンブラは尻尾を振って◯◯◯を見上げている。そちらへ歩きかけた時、背中へ声がかけられた。
「また明日、会える?」
最初の頃の不遜さは身を潜め、かわりにあどけないとも呼べそうな声音に胸を突かれた。
「明日は……会えない、けど」
どう言えば良いだろう。帰る時のことなど欠片も考えていなかった。嘘をついても数日もすればばれるし、本当のことを言っても信じてはもらえない。
わん、とアンブラが急かすように吠える。
「でもいつか会えるよ。ずっとずっと先で、もしかしたら君は私のこと分かんなくなってるかもしれないけど、会えるのは本当」
「何だよ、それ」
低い声がして後ろから肩を掴まれた。
「意味分かんねえよ。勝手に付き合わせて、いつ会えるかも言わないで、名前だって教えてくれないままで」
正論だ、視線を逸らす◯◯◯の肩を掴む手に、痛いくらい力がこもる。
「それで何を信じろっていうんだ」
怒っている、それ以上に傷ついている。はじめ氷のようだと思った青い目は、今は切実に答えを求めて◯◯◯を見る。
どうすればいい?
このままでは彼はずっとわだかまりを抱えていくことになるだろう。あるいは不信感を。
「……いつか会えるから。それは本当だから」
これで良いのか分からない。でも今思いつくのはこれくらいしか無い。
「だからその時まで、絶対に生き延びて。どんな状況でも、必ず生きて帰ってくるって約束して。私のことは信じられなくても」
コルがまっすぐに◯◯◯を見上げる。そうだ、まだ私よりも少し背が低いんだ。
「自分のことは信じられるでしょ?」
ぐっと少年の顎に力がこもる。気持ちを飲み下すように喉が上下して、それから渋々といった様子で手が離れた。
「全然納得いかないけど、あんたができるのはそこまでなんだな」
「……うん、ごめん」
「いいよ、もう。最初から何か事情があるんだろうとは思ってたし」
大きくため息をついて、それから一度だけ、ぎゅっと◯◯◯の身体に腕を回した。
「じゃあな」
「またね」
アンブラのそばへ膝をつく。身体が内側から捻れる感じがした。コルの驚愕する声が最後に聞こえた。
「どこに戻るんだ!?」
*
「お帰りー!」
戻ってくると、四人とゲンティアナが立っていた。
「コルどんなだった?」
「インソムニアは?」
わあわあと質問攻めにしてくる。気になるなら皆も来れば良かったのに。
「将軍は、うーん、可愛かったよ」
「想像つかねー!」
ノクティスが笑った。生意気で可愛かったんだって、と言い張ると更に笑う。
「じゃ、次は俺らも行ってみっか」
「さんせーい!俺陛下が子供の頃とかどんなだったか気になる!やっぱノクトに似てるのかな?」
「いや、それはねぇだろ。もっと落ち着いてるはずだ」
「そうだな、幼少のみぎりから確固としたお考えをお持ちだったに違いない」
「お前ら俺のこと馬鹿にしすぎじゃね?」
わあわあと騒がしい中、◯◯◯は今回の功労者、アンブラを撫でて労っていた。
「ねえアンブラ、また将軍のところに連れてってくれる?」
勢いよく吠えた声はたぶんOKの意味だろう。わしわしと顔の周りを撫でると気持ちよさそうにしている。少年を思いながら、しばらくアンブラの毛並みを撫でていた。
──いつかまた、会える。