あの日の約束
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なるべく起伏の少ない場所を選び、距離を取って相対する。風が吹き抜けて足元の草を揺らした。
「コル、って何歳なの?」
「十五だ」
「じゃあハンデね。十五秒間、私からは何もしないでいてあげる」
かっと彼の頬に血が上って、氷の双眸が瞋恚の炎に燃えた。真っ直ぐに敵意を向けてくるのが新鮮で、◯◯◯はおちょくりたくなってしまう。
「真剣勝負だよ、うっかり手とか切っちゃうかもしれないから、気をつけてねえ」
「そうやって舐めてるのを、後悔させてやるよ」
コルが刀を抜いてぶつかってくる。しのぎで受けると火花が散る。
一、二……
カウントを始めながらどんなものかと観察する。挑発するためだけにハンデをつけたわけじゃない。
なるほど、この歳にしては力強い。速さもある。
「あと八秒」
「カタつけてやる」
怒りのせいもあるか、やや攻撃の調子は単調。と思うと死角から白刃が迫る。
へえ、と◯◯◯は思う。外から見るより冷静なのかな。
……十三、十四
でも、相手が悪かったね。
こちらは成熟した彼のやり方を嫌という程知っている。まだ練られていない太刀筋を読むのは、容易い。
「……十五」
その鼻っ柱へし折ってあげるよ。
◯◯◯の殺気に一瞬、コルが怯んだ。剣先を弾いて逸らし、懐へ踏み込む。くるりと刀を返し柄を思い切り鳩尾に叩き込んだ。少年が身体を折る。肩を掴んで地面に倒し、胸を膝で押さえつけると、苦しそうに息を吐き出した。
「はい、私の勝ち」
「く、そっ……!」
未だ闘志に満ちた顔を歪めて歯ぎしりをするが、身体からは力が抜けている。解放すると草の上に胡座をかいて、不思議そうに◯◯◯を見上げた。
「あんた本当に何者だ?俺より強い奴リストにも載ってないし」
「そ、そんなリスト作ってるんだ……」
その強さへのこだわりは、もはや執念と呼ぶべきかもしれない。四十を過ぎたコルも決して勝ち負けに淡白ではないが、このガツガツした感じはまるで別人だ。
「約束だからね、今日一日よろしく」
「ああ、もう……」
悔しそうに髪をぐしゃぐしゃかき回して、大きくため息をついている。それで?と言う口調は投げやりで、反抗期の男の子らしかった。
「あんたは俺と何をしたいんだ」
「とりあえず王都に戻ろうか。ご飯くらいは奢るよ。何食べたい?」
差し出した手を払いのけて、少年は自力で立ち上がった。ぼそりと呟く。
「……肉」
*
驚いたことにダスカからインソムニアへは乗り合いバスが走っていた。この頃はまだこの辺りもルシスの領土で、人の行き来も盛んにあったらしい。内心の驚きを隠しつつ、コルと並んで座席に座り(幸い、小銭のデザインは変わっていなかった)王都へ入る。
バスターミナルから繁華街へ歩き、肉の焼ける匂いが漂う店の前でコルが足を止めた。
ここ、この時からあるんだ。
鉄人ステーキの看板を見て◯◯◯は内心ほっと息をついた。ここは質より量の店で、値段も手頃なのは知っている。奢ると見栄を張った手前、手持ちが足りないと物凄くかっこ悪い。
カウンターに並んで座る。今はちょうど昼時で、次々と客が出入りしていた。
「はいお待ち」
声と共に、じゅうじゅうと音を立てる鉄板が目の前に置かれる。◯◯◯のリブステーキ300gと、コルの何グラムか分からないが赤身マシマシがっつり肉尽くしステーキご飯大盛りサラダ付き。
「いただきます」
呆然と肉の山を見つめる◯◯◯にちらりと目をやって、小さくコルが呟いた。それから猛然とサラダを平らげていく。
「……いただきます」
フォークを手に取ってこちらもまずはサラダから片付けていく。横を見ると彼はもう肉に取りかかっていた。みるみるステーキとご飯が消えていく。
「私もよく食べる方だけどさ」
身体を動かす仕事柄、少食とは程遠い。以前、合コンに呼ばれた時に食べる量が多い、色気がないと友人に叱られた。しかし。
「君はその、半端ないね」
「最近、腹が減ってしょうがないんだ」
おかわり、とご飯の碗を店員に渡している。おかわり無料で良かった、とまた内心で安堵の息を吐く。
「それに、食うのも鍛錬だからな」
「本当に強くなりたいんだね」
当然だ、とまた白米と肉を口へ運びながらコルは鼻を鳴らした。
「早く陛下のお役に立てるようにならないといけないからな。俺はまだまだだ」
「その歳で十分じゃない?」
「そんなことはない。この間は剣聖に負けたし、今日も負けた。陛下は俺に期待してくださっている」
失望させるわけにはいかない、と気負う姿は頼もしくも、脆くも見える。ただ剣聖に負けた後と考えると納得がいった。
◯◯◯自身は会っていないが、圧倒的だと聞く。
そういったものの一端に触れると、自分がひどくちっぽけなものに思えてくる。その先は諦めるか奮い立つかの二択。
「本当に陛下のこと好きなんだね」
「好き嫌いで話すのは恐れ多いが、まあな」
唇を尖らせるコルの頬を指でつつくと、うざったそうな顔をされた。食べ終えて会計を済ます。良かった、紙幣のデザインも変わっていない。
「ごちそうさま」
店を出るとコルが満足そうに腹をさすった。無邪気な仕草が可愛い。
「いい食べっぷりを見せてもらったよ。オフは普段どこ行くの?」
「武器職人の工房かな」
「……他は?」
少年は首を傾げる。
「公園とか」