be my,be my,be my rock&roll queen
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誘った勢いで白黒はっきりつけたら良いのに、変なところでまだるっこしい。クロウは少し呆れたが、職務上の距離の近さを考えると躊躇う気持ちも理解はできた。
「そもそも◯◯◯は将軍が好きなの?」
◯◯◯が黙った。何よりも雄弁な沈黙だった。
「相手に聞けないなら、もう一回、自分の気持ちを伝えるところからやってみなよ」
「……い、言えない」
「頑張れ」
「駄目だったら慰めてね」
「いいよ、ニックス達と騒ごうね」
でもたぶんそうはならないだろう。クロウは微笑む。コル・リオニスの人となりは、王の剣までも伝わっているのだから。
*
テントの隙間からランタンの灯りが細く漏れている。中へ入る前に、コルは息を吐いた。
いつも通りだ。今日は何も起こらない。これはただの、任務の帰りだ。
言い聞かせ、意を決して布を捲る。中では警護隊のジャケットを脱いだ◯◯◯が、毛布の上でストレッチをしていた。片脚に向けて上体を倒すと、ぺたりとくっつく。
「柔らかいな」
「そうなんです。私アクロバット対応可です」
同じように刀を使っているが、彼女は関節の柔らかさを活かして思いもよらない動きをすることがある。トリッキーな戦い方には内心で舌を巻くこともあった。
「ただ、ここがちょっと固まってるような」
今度は脚を開いて前に身体を伸ばす。先程より倒れる角度が浅い。
「押そうか」
「あ、すいません」
一声かけてゆっくり背中を押す。薄いタンクトップの布越しに◯◯◯が息を吐くのが分かる。あの夜の光景が脳裏に浮かんだ。
こんな声を出すのか、と思った。
……今思い出すのはまずい、振り切ろうと話題を探す。
「そう言えば、逃げる車をシフトで追った話を聞いたぞ」
「そうそう、あれ逃げ足速かったんです。大変でした」
「報告書は出てないようだが」
げ、と呻いて◯◯◯が上体を起こした。手を離す。
「もうすぐ月末だぞ」
「書類って何であんなに書くの面倒なんでしょうね。戦ってる方が楽です」
「王の剣にいた方が良かったか?」
「それとこれとは別。あなたの隣は居心地がいい、し」
言いながら◯◯◯が振り向く。まだ後ろにいたコルと、至近距離で視線がぶつかる。こんなに近いと思っていなかったのだろう、狼狽えて離れようとするのを、手首を掴んで引き止める。
居心地がいい、ね。
胸の奥がちりちりと焦げる。
「今もそうか?」
自分一人のものにならなくても良いと思っていた。怖くて眠れない夜に、一晩だけ寄り添う存在でもいいと思っていた。
嘘だ。
「……今、は」
みるみる◯◯◯の頬に血が上って、逃げ場を探すように目がテントの中を行き来する。
「少し、違う……」
コルの視線を避けるように背ける顔の、頬は真っ赤に染まっている。この顔を他の誰かに見せて欲しくない。
「……私は将軍が好きだけど」
どんどん声が小さくなる。十代の頃ならともかく、いい大人になって好きだの何だのと言うのは恥ずかしいだろう。同じ立場だったら自分だってそうだ。
でも言わせたい。聞きたい。
「もしかしてあの時は、同情からああいうことをしてくれたのかなって思うと、ドキドキしたり不安になったりよく分かんなくなります……」
そう思われていたのか。
『あの時』を挟んで、同じようなことを考えて、ぐるぐると互いに間合いを計っていたようなものか。
◯◯◯を抱き寄せる。気が抜けて、そのまま毛布へ仰向けになる。
「俺はそこまで面倒見の良い上司ではないし」
コルの胸の上で彼女はじっとしている。逃がさないように抱きしめる。名前が出てこない隊員の会話を思い出した。お前たちには悪いが、俺も譲るつもりは無い。
「一夜限りはしない主義だ」
「それって……あの、もっとはっきり言ってくださいよ」
「だから」
ぐっと答えに詰まった。これ以上は無理だ。恥ずかしすぎる。
「これぐらいで勘弁してくれないか」
「私は言ったのに」
どうしても好きと言わせるつもりか。その一言が出せずに唸ると、唐突に◯◯◯が吹き出した。
「将軍、心臓がすごくドキドキしてるのが聞こえますよ」
胸に片耳を当てて楽しそうに笑う。
「あはは、いいです、これからいくらでも機会はありますから。いつか聞かせてくださいね」
「……努力はする」
たぶんそれほど待たせない、はずだ。
◯◯◯の青みがかった黒い目がコルを覗き込む。笑った顔が可愛くて、つられて口元が緩むのが分かった。ついさっきまであった焦燥感は消えていて、代わりに愛おしさが満ちている。
いつの間に、こんなに好きになっていた。
キスをする。言葉にできない分が、少しでも伝わるようにと願いながら。
終