the spectre
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二日酔いでもないのに、妙に頭が重い。
夜勤明けでもないのに、なぜか身体が怠い。
ついでに何だか喉も痛い。
それらが重なってどうも仕事に身が入らない。そう零すと、◯◯◯は何とも言い難い表情をした。
「将軍それ風邪じゃないですか?」
「38℃。風邪ですね」
城内の救護室、コルを前にして若い医師は満足げに体温計の数字を指した。
「喉も随分と腫れています。抗生剤を出しますが、休息をとるのが一番です。ゆっくり寝てください」
熱があると分かると、途端に倦怠感が身体の底から噴き出してくる。目の前がぼうっとしてきて、コルは目頭を指で押さえた。
「特に将軍のような、滅多に風邪をひかない人が感染したということは、相当強力な菌てことですから、周囲のためにも休んだ方が良いでしょう。パンデミックが起きます」
警告なのか馬鹿にしているのかよく分からないことを言いながら、医師は処方箋をプリンターから取る。受け取って立ち上がると、くらりと立ちくらみがした。
「確かにこれは仕事にならんな」
「お大事に」
廊下に出ると◯◯◯が立っていた。結果を聞きに来たという。
「やばそうですよ。私が薬局に行ってきましょうか」
「いや、帰るついでに寄るから問題ない。すまないが後を頼む。急ぎの仕事は……」
何かあったか、考えようとしても思考能力が落ちて何一つまとまらない。ぼうっと壁を眺めるコルの身体を、慌てたように◯◯◯が揺すった。
「そんなのいいから早く帰ってください。何のための側近ですか!」
「……そうか」
「定時で上がって様子見に行きますから。ご飯も私が作るので、寝ててください」
「……ああ」
「タクシーで帰ってくださいね。車は駐車場に置いていって。今運転したら事故りますよ」
「……それくらいは分かっている」
頭に靄がかかって半分くらいしか彼女の言うことが分からなかったが、返事は自動的にできた。とにかく帰って寝よう。帰巣本能に動かされてふらふらと歩きだすのを、◯◯◯が心配そうに目で追っていた。
*
薬を飲んでひたすら眠り、目覚めると◯◯◯がいた。暗い寝室から明るいダイニングキッチンへ出てきて目を瞬くコルに、コンロの前から振り返って微笑む。
「具合どうですか?」
「たぶん、少しは良い」
ひんやりした手が額に触れた。冷たい指が心地良く、目を閉じる。
「まだ熱ありますね。ご飯ができるまで座っててください」
コルを椅子に押し込んで、またコンロに火をつける。鍋がことこと音をさせた。
「スープの他にも何か食べられそうですか?」
「あまり食欲はないな」
「それは重症。皆が、将軍が風邪ひいたってざわついてましたよ。クレイラス様は、新種のウイルスかもしれないから感染症センターに連絡しておけとおっしゃっていました」
「あいつは人を何だと思ってるんだ」
湯気の立つ皿が目の前に置かれた。野菜の入ったスープから立ち上る匂いに、ないと思っていた食欲が湧いてくる。
「ふーふーしてあげましょうか」
「お前、面白がってないか?」
「弱ってるあなたが珍しいもので」
どいつもこいつも、と思いながらスプーンを口に運ぶ。優しい味の中にケディアジンジャーが効いていて、身体の内側から温かくなった。
「……美味いな」
向かいに座った◯◯◯が嬉しそうな顔をする。弱っている時に気遣ってくれる人がいる、そのことにはっとしてスープを掬う手が止まった。
以前は一人でどうにかしていたんだった。
ゆっくりとスープを飲む。スパイスのせいでなく、胸の辺りが温かくなる。
「食べたらまた寝た方がいいです。食器は洗っておきますから。あ、歯磨き忘れちゃダメですよ」
「俺は子供か?」
ここぞとばかりに世話を焼いてくるのに苦笑して、空の器を渡し言いつけ通りに洗面所へ向かう。おやすみなさい、と◯◯◯の唇が頬に触れた。