Make a wish
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
焚き火の熱がぼんやりと暖かい。
イグニスの手料理でお腹を満たし、火に当たっていると、コーヒーを飲んでも眠くなってくる。◯◯◯はマグカップを両手で包みながら、椅子に沈み込んだ。
「でさあ、あの時のクラスのさ」
「へえ、そんなんあったっけ」
プロンプトとノクティスは何かの話題で盛り上がっていて、イグニスは静かに耳を傾けている。グラディオラスはメールだろうか、スマホの画面を眺めている。
いつものキャンプの光景だ。
「あ、火がちょっと弱くなってきたね」
「どうする、薪足すか?」
「明日も早い。そろそろ休んだ方がいいだろう」
「だな、寝るか」
五人で手分けして片付けをし、寝る支度をする。水を使って焚き火を始末していたプロンプトが、感嘆の声を上げた。
「見て!星!すごく綺麗」
言われて空を見上げると、頭上いっぱいに星の海が広がっている。皆が驚く中、◯◯◯は懐かしさにぎゅっと胸を掴まれた気がした。
「これは……すげぇな」
「王都は明るくて星が見えないからな」
「俺、初めて見たわ」
故郷の村は電気が引いてあったけれど、よく停電したし外灯も殆ど無かった。真っ暗な地上に対して、空は星々が明るく輝いていた。母が教えてくれた村の歌にも、星が出てきたのを覚えている。
あの人はどこへ行ったの
私を置いていったあの人は
今どこかで この夜空を見ているかしら
娘や 男は都へ行ったよ
森を抜け 草原を駆けて 戦のために
星明かりを標にして 王のおわす都へと
「◯◯◯、今の何?」
つい口ずさんでいたらしい。どうして皆がぎょっとした顔をしているのか分からず、◯◯◯は首を傾けた。
「故郷の歌だけど」
「全然何言ってるか分かんなかったよ!」
あの人は……と反芻してみると、そういえば言葉が違う。子供の頃から親しんでいたので気づかなかった。
「私のおばあちゃんがそのまたおばあちゃんから教わったような、本当に昔からある歌らしいからね。別の言語なのかもしれないね」
グラディオラスが身を乗り出した。見かけによらずインテリの彼は、歴史に関わる話題が好きらしい。
「どういう内容なんだ?」
訳を伝えると、イグニスが顎に手を当てて考え込む。
「もしかしたら、詩に登場する王はルシス王ではないかもしれないな。興味深い」
「それが現代まで残ってるって凄くね?◯◯◯のいた村って、何か古代の財宝とか埋まってんじゃねーの?」
「これがゲームだったら、歌に財宝を探すヒントが隠されてたりするよね!」
「そんな上手い話は無いよ。伝説なんて聞いたこともないし」
なあんだ、と二人はあからさまに肩を落とす。グラディオラスは反対に、より興味をそそられたようだった。
「なあ、最後まで歌ってみてくれよ。続きはどうなるんだ?」
「待ってね……」
記憶の底を浚って、息を吸い込む。祖母と母と、何度も歌った。
あの人はどこへ行ったの
私を置いていったあの人は
今どこかで この夜空を見ているかしら
娘や 男は都へ行ったよ
河を渡り 砂漠を越えて 商いのために
星明かりを標にして 富の集まる都へと
娘が祈る 星々が
瞬く その輝きの下で
ずっとずっと昔、この地上に生きていた人々と同じように、◯◯◯も歌いながら愛しい人を思う。
彼もどこかでこの夜空を眺めているだろうか。たまには私を思うこともあるだろうか……無事でいるだろうか。
「男の人は戻ってこられたのかな?」
プロンプトがしんみりと呟く。グラディオラスが首を振った。
「どうだろうな。戻れない奴が多かったから、そういう歌が残ってるってことも考えられるぜ」
◯◯◯もそう思う。大昔、村から旅立った人が生きて戻ってくる可能性は、今より低かったに違いない。だから彼女たちは祈った。歌うことは祈ることだった。
何となく全員で、黙って空を見上げる。祖先たちが見ていた空を。
終