Merry Christmas!
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オルティシエの気温はインソムニアより少し低い。防寒対策をしっかりして良かったと、吐いた息が白くなるのを見ながら◯◯◯は思った。
到着したのは夕方で、もう街燈がつく頃だった。
黄色い柔らかな光が街をぼんやりと浮かび上がらせ、水路も灯りを反射して煌めく。夜景の美しさで評判のそこは、クリスマスの装飾で更に華やかさを増していた。映像でしか見たことのなかった場所に、今立っている。
「本物の方がずっと綺麗……」
「そうだな」
振り向くと、荷物を部屋へ運ぶ手配を済ませたコルがホテルから出てきたところだった。空を見上げる彼の息も白い。
「予報では雪が降ると言っていたが、外れたな」
「雪が降っても綺麗だろうけど。あ、でも石畳は滑りますね」
意外そうな顔でコルがこちらを見た。
「経験してきたような口ぶりだな」
「あれ、言ってませんでしたっけ。私の故郷は雪、降ったんですよ」
「そうなのか。では毎年ホワイトクリスマス、か?」
腕を組んで歩きながら、子どもの頃のことを思い返す。まずクリスマスを祝った記憶がない。
「なんか、この時期はチョコボの寒さ対策で忙しかったのしか覚えてないです」
「……そうか」
「将軍は?」
俺か、と彼は遠くを見る目をした。
「経済的に厳しかったからな。学校で催しはあったと思うが」
「そうなんですか。じゃあ大人の力で、今日はしっかりクリスマスを楽しみましょう」
思い出がないなら作れば良い。ね、と覗き込むとコルは小さく口角を上げた。
「では大人ならではの場所へ行こうか」
「さあどうぞ」
カウンター越しにワインが注がれる。一口飲んで美味しい、と呟くと、コルの古くからの友人ーウィスカムが微笑んだ。次はキャビアの鎮座するカナッペを口へ運ぶ。何とも言えない風味が口いっぱいに広がって、頬が緩むのが分かる。
「美味しい……!」
大人ならではの場所、と連れてこられたレストラン・マーゴはワインも料理も絶品だった。
「ウィスカムは、旅の間も美味い飯を作ってくれた。これも良いが、あの時の野戦料理も美味かったな」
「三十年前の味を覚えていてくれるとは、料理人冥利につきるね」
二人は屈託なく笑い合う。一見、厳つい彼らのそんな様子はどこか微笑ましい。コルがポケットへ手をやった。スマホを取り出す。
「すまない。仕事の電話のようだ」
店の隅へ彼が歩いて行き、ウィスカムと二人になる。カナッペをもう一切れ食べることにする。気づくと、店主が目を細めてこちらを見ていた。
「そんなに美味しそうに食べてくれると嬉しくなるよ」
「本当に美味しいです。ワインも。連れてきてもらえて良かったです」
「コルから連絡があって、君の好みを少し聞いていたんだ。それとかなり飲むってことも」
「何てことばらしてるんだ、あの人は!」
ウィスカムが声を上げて笑った。
「仲が良いんだな。まさかこんなに若い子を連れてくるとは思わなかったが。君は彼のどこが好きなんだい?」
「え!?えっと……」
どぎまぎして思わずコルの方を窺う。まだ電話は終わらないようだ。
「優しいし、頼もしいし……」
「そうだね、不器用だけど優しいね」
頬が熱くなってくるのは、アルコールのせいだけではないだろう。
「私の弱い部分も、受け止めてくれるんです」
◯◯◯は思い出す。
任務の帰りに入ったパブのカウンター。温いビール、切れかけた照明、脚のがたがたするスツール。案じるような表情、言葉を探して視線を彷徨わせる彼。
「私、シガイが怖いんです。子供の頃に襲われたのを思い出しちゃって、任務で倒した後に震えが止まらない時があって。情けない話なんですけど」
ウィスカムは黙っている。
「あの人は、怖いことも、弱いことも、悪いわけじゃないって言ってくれたんです。自分で乗り越えようとする限りは、それでも良いって」
あの時のことを思い出すと、胸がほわっと温かくなる。真剣に案じてくれ、◯◯◯のことを臆病者と嗤いもしなかった。
「……すごく嬉しかった」
「あいつらしいな」
電話を終えた当の本人が戻ってきたので、二人で口を噤んで秘密めいた視線を交わす。
「失礼した。何の話をしていたんだ?」
「君は厳しい上司なのかと聞いていたんだよ」
新たに注がれるワインを見つめながら、コルが唸った。眉間に皺が寄る。
「優しくはないな」
「自覚があるならもっと優しくして下さい」
ウィスカムがおかしそうに笑った。