lounge act
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実のところ、レイチェルがコル将軍をどう思っているのかグラディオラスは知らない。
よく話しかけているのは目にするが、恋愛対象として近づいているのかもしれないし、あくまで上司を頼っているだけなのかもしれない。どちらとも取れる微妙な態度だった。
それに異性として狙っていたところで、デートスポットはもはや存在しないし二人きりで過ごせるような場所もない。
「レイチェルっていつからハンターをやってるんだ?」
珍しく任務の無い晴れた昼下がり。並んで昼食をとりながらコルに尋ねると、どうして自分に聞くのか分からないといった様子で将軍は首を傾げた。
「情勢の悪化から募集に応じたんじゃないのか?どう見てもハンターになってから日が浅いだろう」
「そうだけどよ……」
「あの辺りの新人をもっと鍛えて、戦力の底上げを図りたいものだな」
「…………」
◯◯◯、もっと自信持て。将軍は戦力としてしか考えてないぞ。
心の中でエールを送る。が、心理的な距離なんてものは縮めようと思えば手段は色々とあるものだ。不安になる気持ちも理解はできる。
だからもっとはっきり、不安を伝えた方が良いと思うのだが。
と、件の人物が石畳を歩いてきた。手にサンドイッチとコーヒーを持って、にっこりと笑う。
「いつも忙しいお二人が揃ってるなんて珍しいですね。私もご一緒して構いませんか?」
頷くとレイチェルは隣のテーブルから椅子を引いて、コルの傍らへ置いた。躊躇わないところがちょっと怪しいと言えば怪しい。
「今日はお休みですか?」
「いや、討伐の依頼でも来ていれば出るつもりだ」
「コル将軍ていつも働いてますよね。たまには休まないと、身体壊しちゃいますよ」
あー、これは◯◯◯、嫌だろうなとグラディオラスは内心で天を仰いだ。
まずレイチェルは可愛い。男受けする顔立ちでおそらく本人もそれを分かっている。それからこの、狙った(かは分からないが)男の隣にさっさと座る積極性。ちょっと上目遣いで首を傾げる角度。相手の体調を心配する言葉。
色々、あざとい。これはクロだろうな。
「王都にいた頃から休みは不規則だったからな。これぐらいなら大したことはない」
しかしコル将軍は彼女の意図に全く気付いておらず、平然としている。彼もなかなか鈍いと吹きだしそうになるのを堪える。
「すごーい。将軍ていつも落ち着いてて、討伐の時も頼もしいって新人のみんなで話してるんですよ」
すごーい、の鼻にかかった言い方が、いかにも甘え上手な女の子、という感じだ。グラディオラスは笑ってしまったのを誤魔化すために咳払いをした。
それから街路の向こうへ目をやって絶句する。
◯◯◯がいた。
立ちつくす彼女は唇を引き結んで、切なそうな表情をしている。
まずい場面を見られた、と思うと同時に、こっちに来ればいいのに、と思う。
逃げないで、レイチェルと渡り合えばいいのに。
しかし◯◯◯はモニカに声をかけられて、連れ立って行ってしまった。
「どうしたもんかな」
口中で呟いて横を向くと、レイチェルに生返事をするコル将軍が◯◯◯を目で追っていた。
何やってるんだこの二人は。
思わず出た溜息は、幸運にも二人には聞こえなかった。
*
モニカが地図を広げて指で範囲をなぞった。よく見ようと◯◯◯も屈み込む。
「この辺り一帯に出るクアールを退治してきて欲しいの。今出られる人は……」
「俺が行こう」
声と共に地図の上に影が差す。顔を上げたモニカがコルへ一礼した。
「ではお願いします。◯◯◯と将軍なら、二人で十分ですね」
「ああ」
「私も行きます!」
割って入った高い声に、◯◯◯はうんざりした顔を隠せなかった。一度目を閉じて、気持ちを落ち着けてから振り向く。
「足手まといにはなりませんから」
「どっから来んのその自信」
しまった、全然、落ち着いてなかった。後悔しても遅く、レイチェルはきっとこちらを睨みつけている。反論しようとするのを制止したのはコルだった。
「クアールはまだ荷が重い。俺たちに任せておけ」
「でも」
コルの目が厳しい光を帯びる。
「一人の甘い判断が、部隊の全員を殺すこともある。過剰な自信を持つのは危険だぞ」
レイチェルは悄然として俯いている。コルの口調が和らいだ。
「気持ちだけ受け取っておく。まずは鍛錬に励んでくれ」
「……はい」
普段は憎たらしいが、しょんぼりしていると少し可哀想に思えてくる。が、ぱっと顔を上げた彼女はもうキラキラした笑顔だった。
「じゃあ戻ってきたら、鍛錬に付き合ってください!」
将軍はお前を鍛えるほど暇じゃねーよ!◯◯◯は胸の中で吠えた。
もうちっとも可哀想じゃない。やっぱり憎たらしい。
コルが不思議そうに目を瞬いた。
「そんなにしごかれたいのか」
違う、そういう意味じゃない。同じことを思ったのだろうモニカが、小さく肩をすくめた。