lounge act
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バイクのエンジンを切ってヘルメットを外す。湿度の高い空気が全身に纏わりついて、◯◯◯はげんなりした。
レスタルムの食事は美味しいし、住人は気さくで話しやすい。ただ、この蒸し暑さには辟易する。
「あっっついなあ」
「まだ身体が慣れないか」
馴染みのある低い声に振り向くと、涼しい顔で立つコルがいた。きちんとジャケットまで羽織っている。
「将軍。一週間ぶりですね」
「最近、入れ替わりで任務へ就くことが多いからな。今日は一人か?」
「はい。拠点まで部品を届けに行っただけなので」
ルシス、ニフルハイムが相次いで滅び、生き残った人々はレスタルムを拠点に選んだ。ここを起点に他の街へ電力を供給し、イオスの夜化へ対抗している。
コルの手が伸びてきて、◯◯◯の頭をくしゃりと撫でた。掌の感触が懐かしい。
「人手不足とは言え、あまり単独で行動するな」
「はい」
青い目がふっと和んだ。髪を撫でた手が頬へ滑り落ちてきて、無意識にそちらへ頭を傾ける。しかし穏やかな空気は若い女の声で破られた。
「コル将軍!」
苦い思いでそちらを見ると、道路脇に停めたジープのそばにハンターの服装をした女性が立っていた。レイチェル、と心の中で忌々しさを込めて名前を呼ぶ。
「出発の準備ができました!」
「今行く」
頬から熱が離れる。◯◯◯は密かに溜息をついた。
「気をつけて」
「ああ。お前も無理をしないように」
ジープの運転席には若い男性が座っており、隣にも友人と思しきハンターがいて談笑している。二人が後部座席へ入るとすぐに車は動き出した。コルに向かってレイチェルが盛んに何かを話しているのを横目に、バイクを押してガソリンスタンドへ向かう。
「給油ですか」
「自分でやるので」
スタッフが駆け寄ってくるのを断って、静電気パッドに手を当てるとまた溜息が出た。頭を振ってタンクのキャップを開ける。ノズルを入れ、トリガーを引く。さっきの光景を思い出しそうになって、給油に集中する。ガソリンが溢れるとタンクの塗装が剥げてしまうから、別のことを考えている暇はない。
「残念だったな」
「グラディオ、帰ってたの」
メーターから目は離さないまま、隣に現れたグラディオラスへ返事だけする。
「いつから見てた?」
「最初から。キスでもするんじゃねえかと期待してたんだが、邪魔が入ったな」
そう言えば、最後にキスしたのいつだっけ。ニフルハイムから戻って、ノクティスを探したり避難民を街まで誘導したり、拠点を転々とすることが多い。顔は合わせてもさっきのように仕事の合間や任務の時なので、二人きりで過ごすこと自体があまりない。むしろ、王都にいた頃より減っている。
「……仕事中にそんなことしないから」
「大人だな」
グラディオラスの声が少しだけ尖った。
「けどな、自分の気持ちは素直に伝えといた方がいい。すれ違いが起きてから慌てても遅いぞ」
コルにしきりに話しかけているレイチェルの姿。
違う、彼がハンター達を引き連れて行ったのは、戦力のバランスを考えてのことだ。三人の経験が浅いのをカバーするためだ。ジープに乗っていたメンバーは、新人ばかりだった。
「淋しい時は淋しいって言わないと、将軍はまず気づかないぜ」
「こんな状況で言うことじゃないでしょ」
そっとノズルを抜く。タンクのキャップを締める。
「こんな状況だからだよ」
タイヤの空気圧をチェックする。まだ大丈夫そうだ。手を払って立ち上がる。グラディオラスはもどかしそうに口元を歪めている。
「お前って押しが強いのか弱いのか分かんねえな」
黙ってジープが去っていった方向へ目をやる。
たぶんグラディオラスも◯◯◯も間違っていない。
こんな状況……世界が終末に向かいつつあり、その対策に追われる中、個人の感情をぶつけて相手をわずらわせるべきでははないと考えるのも。
いつ死ぬか分からないからこそ、思いは素直に伝えるべきだと考えるのも。
彼もきっと、王都にいた誰かに伝えそびれた言葉があるのだろう。
だからこうして忠告してくれている。
「……参考にするよ」
答えた声は掠れていて、◯◯◯の内心を少しも隠してくれなかった。グラディオラスは慰めるように背中を叩いてくれた。