duality
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「今日も一日ご苦労様」
レギス王自らがウイスキーの入ったグラスを手渡してくれて、◯◯◯は慌てて受け取った。
「ありがとうございます。申し訳ないです、陛下にお酌をさせるなど」
「良いんだよ。ここは私の部屋だ」
恐縮しながらコルの隣へ座る。テーブルを挟んで向かいにいるクレイラスがニヤニヤしていた。なお彼は当然のように椅子へふんぞり返って、王からグラスを受け取っていた。
「二人とも距離が近いんじゃないか。見せつけてくれるな」
「彼女を連れて来いと騒いだのはお前だろう」
「おっさんばかりじゃつまらんからな」
臣下の言い合いをにこやかに眺めながら、レギス王も一人がけのソファへ腰を降ろす。グラスを口へ運ぶ姿は、一日の執務を終えてくつろいでいるように見える。
「コルお前、ちゃんと休みを合わせてデートはしてるのか。捨てられるぞ」
「うるさいな。そんなことを心配される筋合いはない」
「そうやって余裕ぶって、他の男に盗られてから後悔しても遅いんだからな」
「余計なお世話だ」
大の大人が男子高校生のような会話をしている。初めは公務での姿との違いに戸惑ったが、今はもう慣れた。少し笑ってグラスを揺らし、氷と酒を混ぜていると、穏やかな眼差しのレギス王と目が合った。
居心地の良い、優しい時間があそこには流れていた。今では遠い昔のことのように感じる。
*
外からそっと名前を呼ばれて、◯◯◯は起き上がった。スマホの時刻を見ると朝の五時。ジャケットを羽織ってテントの外へ出ると、身支度を整えたノクティスが昨夜の焚火の側に立っていた。
……何か気合いが入っている。
「はよ」
「おはよう。どうしたの?皆まだ寝てるけど」
「釣り行こうぜ」
「……戻っていい?」
「何で私なの。イグニスに頼みなよ」
標から釣り場へ向かうノクティスの足取りは軽い。普段は寝起きが悪い癖に、釣りの時だけは俄然、早起きをする。解せない。
「朝飯の支度があるから無理だって」
「プロンプトは?」
「昨日疲れたから起きられないってさ」
「じゃあグラディオ」
「あいつは小さいの釣ると馬鹿にしてくんだろ」
「ああ……」
確かに以前そんな場面を見た気がする。
「一時間くらいで切り上げるからさ」
と言いながらいそいそと釣竿を取り出すノクティスに苦笑して、手近な岩に寄りかかる。ここからなら、もし野獣が近づいてきても気づくことができる。早朝の釣りには必ず誰かが付き添うこと、これが◯◯◯達の取り決めだった。
「朝と夕方は釣れんだよ。魚が腹減らしてるから、食いつきが良い」
「へー」
「明らか興味ねえな」
ロッドが風を切る音、ルアーがぽちゃんと落ちる音がする。◯◯◯は欠伸を噛み殺しながら景色を眺める。日が昇ったばかりの湖は朝靄が漂っている。
「◯◯◯さあ」
「んー」
「たまに親父んとこ来てた?」
よく意味が分からず黙っていると、ノクティスの手が忙しなく動いた。リールを巻き上げる。針にかかった魚が身をくねらせて、雫がきらきらと散った。
慣れた手つきで針を外す。魚の口を持って、そっと水に帰している。
「クレイラスとかコルと一緒に」
「それね。うん、行ってたよ」
またロッドがしなる。風を切る音、それから水音。
「親父が女の子が来るようになったって話してた気がしてさ。俺、聞き流してたんだけど」
そこはちゃんと聞いとけよと言いたいが、さすがに王子にそんな口はきけないので◯◯◯は黙る。
「コルがどうのこうのって言ってて」
「側近て言ってたんだと思うよ」
人の話を聞いてないにも程がある。それとも、一般的な親子関係はそんなものなんだろうか。十代で家族と縁の切れた◯◯◯には判断がつかない。
「お、入れ食い」
朝は釣れるというのは本当らしく、次々と釣っては放し、ノクティスは釣りに集中し始める。その背中も態度も、父親とはあまり似ていない。レギス王はいつも真面目で、人の話によく耳を傾ける人だった。差別をせず、下の者にも労いの言葉をかけてくれる、そういう君主だった。
「親父、◯◯◯が来るの楽しみにしてたんだぜ」
「へえ」
「娘ができたみたいだって嬉しそうだった。ほら子ども、俺しかいねーし」
「そう」
畏れ多いような嬉しいような、落ち着かなくてもぞもぞと身動ぎする。ノクティスが手を止めて振り返っていた。
「ありがとうな」
少しぎこちなく笑う彼に、レギス王の顔が重なった。
「どういたしまして」
やはり照れ臭かったのか、すぐに顔を前に戻し釣りに没頭している。
前言撤回、やっぱり親子だ。彼も感謝を言葉にしてくれる人だ。徐々に明るさを増す空を見ながら、もしかしてそれを伝えたくてノクティスは釣りに誘ってきたのかもしれないと思った。
終