ただ一つの光が
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
口の中に血の味がする。汗が目に入ってきて視界がぼやけた。耳に響く、自分の息の音がうるさい。
「やっ……と終わり……!」
◯◯◯が止めを刺した最後の一体が、霞のように消えた。その場に座り込みたくなるのを堪え、重い脚を引きずって岩の陰にうずくまる影の方へ近づく。
「将軍、ご無事ですか……?」
「……ああ」
返事の割に彼の顔色は悪い。青白いライトで照らされている分を差し引いても、あまり良い状態ではなさそうだ。
「どこやられました?」
「脇腹だな。内臓は無事だろうが」
出血が、という言葉に足元から震えが昇ってきた。確かめると、ジャケットとシャツの裂け目が血で濡れている。傷そのものは深くないが出血が止まっていない。
「あれを喰らったせいで消耗した。竜巻のような」
「あの嫌なやつですね」
リッチの起こす風は体力を低下させる。このまま止血ができないと、それと相まってかなり危険な状態になる。傷口を圧迫しようにも適した物が見当たらない。
「歩けますか?ここで救援を待つよりは、標まで行った方が良いかもしれません。動くとより出血するのが心配ですが」
「支えてもらえば何とか」
◯◯◯を見上げてコルが苦笑した。
「置いていけと言っても、お前は聞かないんだろう」
「当然です。さあ手を」
傷を負ったのとは反対側、彼の腋に肩を入れ、腕を掴んで息を合わせて立ち上がる。立ちきった瞬間にコルが呻いてバランスを崩しそうになった。
◯◯◯に見せている以上に彼の状態は悪い。
周囲を見渡す。動かなくなった仲間たち。でも遺品を持ち帰る余裕も、ない。
ぎゅっと唇を噛んで、木立の向こう、標の青い微かな光の方角へ歩きだす。
「痛みますか」
「痛むが、耐えられないほどではない。ポーションが残っていれば良かったんだが」
「残しておく余裕がありませんでしたね……」
一歩一歩、進むごとに彼の身体が重くなっていく気がする。こちらの体力が尽きてきているからか、あちらの力が弱くなってきているのか、判断がつかない。
「◯◯◯」
「はい」
「お前が俺に逆らったのは、初めてだな」
「……そうですか?」
そうかもしれない。意見することはあっても、命令をはねのけるようなことはした記憶が無い。もちろん私生活では別だ。歳の差はあっても二人は対等で、何かを命じられるようなことは無かった。
「将軍が馬鹿なことを言うからですよ」
「馬鹿とは何だ、俺は二度と後悔したくなくて」
「だったらノクトが帰ってくるまでちゃんと生きて、彼を守らなくちゃ意味ないでしょう。私なんかじゃなくて」
そうだな、という声は弱弱しく、◯◯◯の中に焦りが湧きあがってくる。もっと速く歩けたら、彼を抱えて運べるくらい自分がたくましかったら。
「だが俺は、どうしてもお前が死ぬところは見たくなかった」
「私だって同じです」
暗い道を歩き続ける。珍しくコルはよく喋る。喋っていないと意識が保てないのだろう。それに気づいて、ぞくりと身体に悪寒が走る。
「皆をまとめられるのはあなたしかいないのは事実です。でも例えそうじゃなくても、私はあなたがいなかったら」
言いかけた言葉を咄嗟に飲みこんだ。この状況で口に出すのはいかにも縁起が悪く思えた。
生きられない、などと。
「……いなかったら?」
察している癖にわざと分からないふりをしてくるのが腹立たしい。憮然として、掴んでいる腕を支えに体勢を立て直す。ずしりと重みがかかってよろけそうになった。
「大丈夫ですか」
さっきより腕が重くなった気がした。見ると、彼の目は閉じられ顔色も少し悪くなったように思える。
「将軍?ねえ」
呼びかけにも返事は無い。瞼もぴくりとも動かない。足から震えがきて全身に広がった。声が掠れる。
「返事してください、将軍」
嫌だ。冷静にならなければと思っても、パニックが襲いかかってくる。
「将ぐ……、コル」
私を夜の中に置き去りにしないで。
「一人にしないでよ……」
掴む腕に、微かに力が戻った。
「……そうだな」
コルが目を開ける。半べそをかく◯◯◯にしっかりと焦点を結んで、笑った。
「お前が眠れない時は、そばにいないといけないしな」
それは昔、◯◯◯が寝つけない夜に、彼が枕元で約束したことだった。
「そんな何年も前のこと、覚えててくれたんですね」
「忘れるわけがない」
安堵に滲んだ涙を拭って、またゆっくり標へ向かって歩きだす。いよいよ体力は限界に迫り、目も霞んできた。でもあそこまで辿り着けば、レスタルムへはすぐだ。
地上から空へ、青い光が伸びている。
終