海の青
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紫と白のライトがジェラルドの顔をまだらに染めた。心臓の鼓動にも似たビートが腹に響く。DJブースに男が立つと、周囲から歓声が上がった。
「Let's turn up!」
手が上がる。光が瞬く。ベースとシンセが絡んで弾む。ステップを踏む。身体を揺らす。暴力的な音の雨を◯◯◯は思い切り浴びる。生活の中の色々なことが、泡になって消えてゆくような感じがした。
「はー」
踊り疲れて、ジェラルドと二人バーカウンターに並んで座る。金曜の夜、王都でも有数のクラブは、まだ早い時間なのにほぼ満員だった。
「ラムコーク一つ。◯◯◯は何飲む?」
「同じので。ありがとう」
カクテルを受け取り、足でパンプスの踵を脱いで爪先に引っかける。プロ並みに踊っている人、いちゃつくカップル、壁際で飲み物を手に盛り上がるグループ。思い思いにフロアを蠢く人たちをぼんやりと眺める。
「で、どう?」
「何が?」
「友達。どっちか好み?」
「ああ……」
今日はジェラルドの学生時代の友人という男性が二人来ていた。どちらも垢ぬけた雰囲気の、いわゆるイケメンだったのだがどうも◯◯◯には見分けがつかない。
「少し話しただけだし、まだ分かんないなあ」
「それもそうか」
紹介されて握手をした時、二人の掌の滑らかさに内心で驚いた。◯◯◯の知り合いは殆どが警護隊か王の剣の男性で、彼らは日常的に鍛錬しているから掌も傷や肉刺でごつごつしている。もちろん自分も滑らかさとは程遠い。
あの人の手はどうだったっけ。
思い出そうとしたところで、いきなり上がった怒号に思考を断ち切られる。見ると、若い男が他の客と掴みあいになっていた。
「どうする、止める?」
ジェラルドが顔をしかめた。
「って言ってもなあ。素手じゃ自信ない」
「私も」
クラブには危険物の持込は禁止されていて、入る前にはセキュリティチェックがある。◯◯◯達は武器召喚をするため見た目には分からないが、何か問題が起きても嫌なので得物は置いてきていた。
「ちょっとヤバそうだな」
硬い声の呟きに頷く。騒ぎは更に大きくなっていた。駆けつけてきた警備スタッフとの間でもみ合いが起き、煽る者や便乗して暴れようとする者が集まってくる。DJも曲を止めるべきか迷うようにそちらを見ていた。やがてテーブルが倒れグラスが飛び、乱闘が始まる。頭痛がしてきて◯◯◯は額を抑えた。
「プライベートの時までこういうの見たくないわ……」
「あ、でも警護隊が来たぜ。誰か通報したんだな」
どやどやと防音扉を開けて、見慣れた黒い制服の一団がなだれ込んできた。彼らは冷静に暴れる人間を取り押さえ、絡み合った人の塊をもぎ離しにかかる。何人かはこちらに気付いてニヤニヤ笑っていた。口の動きだけでデート?と聞いてくる奴もいて、◯◯◯は大きく首を振った。
「……何か気まずいから、私帰るね」
「俺も帰りたいけど、友達置いてくわけにいかないしな。一人で大丈夫?」
「まだ早い時間だから。じゃあね、また来週」
バッグを掴んで出口へ向かう。地上への階段をヒールを鳴らして上っていると、夜を台無しにされた怒りが湧き上がってきた。
「ああもう、本当サイテー」