優しいひと
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テーブルの上でスマホが鳴った。
画面を見るとコル将軍と表示されていて、◯◯◯は慌てて通話を押す。
「もしもし」
「◯◯◯か?私だ、クレイラスだ」
「クレイラス様?」
なぜコルのスマホで彼がかけてくるのか。
「今日、酒は飲んだか」
「え?いいえ……」
「急な頼みで申し訳ないんだが、できたら私の家に来てもらいたい。その……タクシーかメトロで」
「はい?」
思わず時計を見る。時刻は夜八時を過ぎたところ。メトロはまだまだ動いているが、なぜ交通機関の指定を?
「えーと、三十分ぐらいで着くと思います」
不可解だが宰相の頼みとあっては出向くしかない。部屋着から手早く着替えて靴を履いた。
*
アミティシア邸は都心から少し外れた高級住宅街の中にある。結局タクシーで行くことを選んだ◯◯◯は、クレイラスから聞いた住所で車を降りて思わず息を飲んだ。
「すご……」
重厚な鉄の門は高く聳え、柵の向こうには広大な庭園が広がっている。その彼方に瀟洒な作りの館が見えた。小さく見えるのは距離があるからで、実際はかなりの豪邸だろう。
本当に、なぜ呼び出されたのかさっぱり分からない。
どうすれば良いのか、見回すとインターホンを見つけた。押してみる。
「―面倒をかけて済まない。入ってくれ」
てっきり使用人の取次があると思ったのに、まさかの当主本人が出た。狼狽えている間に軋みを上げながら自動で鉄門が開く。しっかりと均された道は灯りがつき、その下には可憐な花が植えられているが、生憎と植物には詳しくない。
たっぷり五分以上歩いて、やっと館の前に辿り着く。その正面玄関の脇、車を止めるスペースに見覚えのある車種を見つけて、◯◯◯は首を傾げた。
「……んん?」
黒塗りのそれはコルの車だ。ということは彼もここにいることになる。クレイラスが彼のスマホを使ったことから考えても、この屋敷にいるのは十分あり得る。
問題は、なぜ電話をかけてきたのがコルではないのかだ。
これはもう自分の頭で考えても無駄だ。あっさり諦めてまたインターホンを探した。と、見計らったかのように扉が開く。
「勤務時間外に呼びつけてしまって、本当に申し訳ない。入ってくれ」
「あ、は、はい」
◯◯◯を出迎えたクレイラスは、憚るようにそっと扉を閉めた。ついてくるよう促され、彼の後から二階への階段を上がる。
「もう自宅にいたのか?」
「ええ、はい」
そうか、と呟く宰相はどうも歯切れが悪い。それほど切り出しにくい用件とは何なのか。
「その、こんなことを頼めるのは君しか思いつかなくてな」
「……どういったご用件でしょうか」
ふかふかの絨毯を敷き詰められた廊下を歩き、黒い木でできた扉を開ける。中は書斎で、風格のある大きな机と本の詰まった書棚、机の前にはローテーブルとソファが置かれている。そのソファに横になっている人物がいた。
「あいつを連れて帰ってくれないか」
横になって眠っているのはコルだった。
どういう状況なのか分からず立ちつくす◯◯◯に、クレイラスが弁解がましい口調で説明をする。
「久しぶりに二人で飲んでいたらつい飲み過ぎてな。帰りは代行を頼むつもりだったんだが、不死将軍のこの姿を一般人に見られるのもまずいと思って君に連絡したんだ」
テーブルを見れば、かなり量の減ったウイスキーのボトルとロックグラス。これで納得がいった。わざわざタクシーかメトロで、と言ったのは、コルの車を◯◯◯に運転させるためだったのだ。
始めから電車で来てくれれば、とも思ったが、この様子ではそもそも一人で帰らせるのが危険だろう。
「私もそう思います」
とりあえず起こそうとソファへ近づく。肩を揺すろうと手を伸ばした時、その手が掴まれた。
「なんだ、◯◯◯か」
酒を飲んでいても気配に敏いところは変わらない。流石と思いながら腕を引く。
「迎えに来ましたよ。帰りましょう」
「そうだな。まずは緑の棚を整理してからだ」
「……は?」
目は開いているがどこかぼんやりしたまま、コルは中腰になった◯◯◯の身体に腕を回す
。腕と腰を引き寄せられて、彼の上に倒れ込みそうになった。
「ど、どういうこと」
「だから片付けをしなければ」
「どういうこと!?」
しっかりした口調で支離滅裂なことを言うのが妙に怖く、またこのままではクレイラスの前でとんでもない事態に陥るのではと更に焦りが募る。とにかく起きてもらおうとしても、酔って加減が効かないのか彼の力の方が強い。
かしゃ、と音がして振り向くと、クレイラスがスマホを構えていた。