ささやかな嫉妬
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データを保存して印刷をクリックする。プリンターが紙を吐き出し終えるのを待ちながら、深呼吸と伸びをした。ずっと同じ姿勢でいたから肩が凝っている。
「帰れるか」
「はい、何とか」
見れば彼も端末の電源を切っている。何やら片付いたらしい。
「あ、そうだ。お腹空いてませんか?ジェラルドにチョコ貰ったんですけど食べます?」
「そう言えば何か渡されていたな。腹は減っているが遠慮しておく……お前、飯の前に甘いものを食べるのか」
「いやいや、甘いものはいつだってオッケーですよ!」
まだ印刷は終わらない。いそいそと傍らに置いておいた箱を取り、リボンを解く。蓋を開けると小粒のチョコレートが五つ、宝石のように収まっていた。
「マルキンのチョコ、食べてみたかったんですけど買うには勇気のいる値段だし。前にその話をしたのあいつ覚えててくれたのかな。良いやつー」
ほう、とコルが低く呟いた。まずどれを食べようか、しばし迷ってハートの形をした物に決める。
「そういう細やかな所がモテるのかもしれないですね。いただきます!」
口の中に濃厚な甘みが広がって、頭の奥がじんとする。外側の部分が溶けると、中に入っていたカシスのガナッシュがチョコの味と混ざった。美味しい。自然と笑顔になる。
「……やはり一つ貰おうか」
コルが立ち上がって近くへ来た。まだ喋れないので箱を差し出す。が、そちらは見もせず、少し屈んで◯◯◯の頬へ触れた。彼の顔が近づいて唇が重なり、舌が溶けかかったチョコを奪っていく。こくん、と喉が鳴る音が聞こえた。
「……甘いな」
「な、なん、なに……!?」
ぺろりと唇を舌先で舐められて、やっと我に返る。起こった事に頭が追いつくと一気に体が熱くなった。心臓がものすごい勢いでドキドキいっている。
「何するんですか!」
「美味しいと言うから食ってみた」
「し、仕事中ですよ!」
「本日は終業だ」
ほら、と指されれば確かにプリンターはもう止まっていた。
「あ、お疲れ様でした、ってそういう問題じゃないです」
「オンオフの切り替えは大事だろう」
「人が、来たら」
「この時間に来る奴はまずいない」
肩に手が置かれて椅子に押さえつけられる。またキスをされて、もう奪る物は無いのに、コルは執拗に◯◯◯の口内を荒らす。おかしい、なぜ急にこんなことをしてくるのか分からない。強引になるスイッチどっかにあったっけ?かつてない事態に混乱の極みに達した瞬間、どこか下の方で音がした。
ぐうううう、という腹の音が。
笑いだすのを堪えている表情で身体を離したコルは、空腹の大合唱を続ける◯◯◯の腹の辺りを見下ろした。
「すごい音だな」
「いちいち感想言ってくれなくていいです……」
そもそもさっきのチョコだって、結局食べたのは彼だ。恨みがましい目で見上げると、乱暴に頭を撫でられた。さきほどの妙に凶暴な気配は消えている。
「何か食っていくか」
「いいですね、私お肉食べたいです」
「この時間でもやっているのは……あそこかな」
まあいい。考えても分からないものは仕方ない。それよりも目先のご飯だ。
急いで書類をホチキスで留め、椅子の背へかけていたジャケットを手に取る。支度ができたのを見て、コルが執務室の電気を消した。
終