ささやかな嫉妬
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眠らない街インソムニアは夜でも明るい。その中心にどっしりと聳え、昼と変わらぬ威容を誇るのは王都城。荘厳な城の奥、コル将軍の執務室に、キーボードを叩く音が響く。
「本当にもう、毎月毎月……」
「言うなよ、俺も分かってるんだよ、分かってるけど」
「分かってるけど出来ないのよ」
月末、溜まりに溜まった報告書の山を必死に片付けながら、◯◯◯は叫んだ。
「ああもう何で書類って無限に湧いてくるのかなあああ!」
警護隊の主な任務はインソムニアと周辺の治安維持で、何かと細々した出動が多い。出動した際には担当した隊員が報告書を提出する義務があり、それを◯◯◯や幹部クラスが一ヶ月分のデータをまとめ、コル将軍へ渡す手順になっている。
報告書が上がってくる度にデータを打ち込んでおけば良いのだが、勤務の合間に自分の報告書を書き、更にまとめる所まではなかなか手が回らない。その上、隊員は誰もが提出を後回しにしがちだから、月末の残業は毎月恒例だった。
今は三十一日の夜、つまり提出期限は明日。
「もうやだ、お腹空いた、でも買出しに行く時間も惜しい」
「同感」
隣席で作業をしている同僚のジェラルドが、キーボードを叩く速度はそのままに小さく頷いた。端正な顔立ちにウェーブのかかった黒髪がセクシーと評判の彼だが、今はげっそりと目の下が窪んでいる。
「将軍、明日ご確認お願いします。お先に失礼します」
「ご苦労」
同じように鬼気迫る表情で仕事をしていた同僚が、プリントアウトした書類をコル将軍の机に置いて颯爽と去っていった。それと入れ違いに警護隊の青年が入ってくる。
「◯◯◯!ごめん!」
彼の顔は青ざめ、その手には白い紙の束が握られている。まさか、そんな、◯◯◯の顔からもざっと血の気が引く。
「俺の部隊に出し忘れがあった!」
「えええええ」
やっと終わりが見えてきたと思ったのに、これではまだ帰れない。ふっと気が遠くなる。ジェラルドが可哀想に、と乾いた声で呟いた。
「本当ごめん!埋め合わせは必ずするから」
「あんたの部隊、今度の演習でギッタギタにしてやる」
「それは勘弁してくれ」
◯◯◯の手に報告書を押しつけ、そそくさと出て行く青年に、王の剣時代に愛用していた罵りの言葉を心の中で投げつける。もういい、彼(とその部下)への復讐を考えるのは後回しだ。まずはとにかく仕事を終わらせよう。と気合いを入れた時、隣席の同僚が立ち上がった。
「憐れな◯◯◯を残して帰るのは心が痛むんだが、俺も上がるわ」
「お疲れ。うう、私も日付が変わる前に帰りたい……」
書類を提出して戻ってきたジェラルドが、何かを取り出した。渡されたのは凝った模様の入った細長い箱。黒い箱に巻かれているサテンのリボンも艶々として、高級感に溢れている。
「これ食べて元気出せよ。ピエール・マルキンのチョコ」
「え、あの一粒、三百ギル以上する高級チョコ!?本当にいいの!?」
「こないだ当直を替わってもらったお礼に渡そうと思ってたんだ。甘いもの食べて頑張れよ」
「ありがとジェラルド。後で貰うね」
じゃ、と爽やかに彼は去って行き、作業をしているのは◯◯◯だけになった。コルは静かに自身の机で、ディスプレイを見つめている。
「将軍もまだ帰れないんですか?」
「まあ急ぎではないんだが、片付けておきたいことがあってな。終わりそうか?」
「何とか終わらせます」
気を取り直してパソコンへ向かう。もう一踏ん張りだ。