『ハッピーくまさん』
終業のチャイムが鳴るやいなや、俺は携帯電話を開いてバイト先に電話をした。
いつも鞄のポケットに入れてあるシフト表が、落としたのか見付からないのだ。
おおよその時間は分かるのだが、念のために聞いて助かった。
自分が思っていたよりも一時間早かったからだ。
しっかりしてくれよとおおらかに笑う上司に謝りながら、俺は急いで教室を出た。
「うわっ……!」
瞬間、誰かと肩がぶつかる。
一瞬確認した顔は、随分と美形だ。
「ごめん!」
言いながらも、足は止められない。
本当はここぞとばかりに長話をしたいところだが、あいにくバイトに遅刻しそうなのだ。
そんな俺の態度を特に気にする様子もなく、いつもの明るくて元気な声が廊下に響く。
「何、急いでんだー?」
「バイトー!」
彼の笑い声を背中で受ける。
今日だけは遅刻するわけにはいかない。
だって、今日が最後なんだから。