『死体に恋した男』

 
 一目惚れだった。

 あの日から、俺は彼のことしか考えられなくなった。

 初めに手に入れたのは卒業アルバムだった。

 制服で、彼の通うハイスクールが判った。

 お前は陰気だ。
 工場長にそう怒鳴られても、俺は言い返すことができないような臆病者だ。
 大それたことなんか何も出来やしないのに、彼を知りたいという欲求は日に日に増し、自分でも信じられないが、俺はたびたびそのハイスクールに忍び込んだのだった。

 何度めかの時、廊下の壁に貼られたダンスパーティの写真に彼を見つけて、一緒に盗ってきた。

 他にも、成績表や住所録、彼に関するものは全て。

 名前はアルバート・キャリーだった。

 友人だと嘘をつき、彼の母親と会った。
 俺は童顔だったから、19歳でも同級生だと信じてもらえた。

 彼のことを色々と聞いた。

 子供の頃はどんな性格だったのか、ガールフレンドはいたのか、好きな食べ物は何なのか……。
 些細な事も、俺にとっては興味深いことだった。

 その時に腕時計を手に入れた。

 家に帰って、ほお擦りするようにそれを撫でては、腕につけた。

 時計の針はいつの間にかズレていくもので、気づいた時にはすでに壊れている。

 この時、俺の針はすでにズレていたのだ。

 写真や持ち物、そして他人から聞かされる記憶を手に入れても、満足できなくなってきた。

 脳裏に焼き付いた彼の姿を想うたび、俺は空想に浸るようになっていた。

 彼自身を手に入れたいと思った。

 大きなシャベルを担いで、彼のいる場所へ向かう。

 夜の墓地は闇に支配され、木にとまったカラスの鳴き声だけが響く。

 彼に初めて会ったのは、駅前にあるドーナツ屋の前だった。
 車に轢かれてほうり出された彼の身体が、店のガラスドアを割ったのだ。

『アルバート・キャリー』
 名前と十字架が彫られた墓石を持ち上げ、そこへシャベルを差し込む。



 俺は、何をしているんだろう。









End

 
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