『トライアングル』
額に温かい感触がした。
瞼を開けると、心配そうに眉を寄せる政樹がいた。
「大丈夫か?」
「あ、ここ……保健室?」
「ああ、お前倒れたんだぞ」
「部活は?」
「もうとっくに終わってるよ」
窓を見ると、既にグラウンドは暗くなっており、遠くの電柱には明かりが灯っていた。
「驚いたよ。呼んでも起きないから」
そう言った政樹が、俺の額に乗せていた手を離した。
冷えた空気がそこから胸の奥まで浸透してくる。
これ以上、政樹を見ていたら泣いてしまいそうだった。
「……帰れよ。麻奈美ちゃん、待たせてるんだろ」
「待たせてない」
「見に来てたぞ、練習」
「俺を見に来てたんじゃない」
「は? 何言っ……」
突然、唇を塞がれた。
驚いて目を見開くと、真っ赤な顔がぷいと窓へ向いた。
「麻奈美ちゃんは充を見に来てたんだ。俺は相談を受けてた。仲を取り持ってくれって……」
政樹が険しい顔で鞄を手に取る。
「よかったな。両想いで」
そう言って背を向ける彼に、俺は思わず上半身を起こした。
「政樹はそれでいいのかよっ!?」
怒鳴ると、政樹が立ち止まる。
二人きりの保健室。
グラウンドには誰もいない。
壁の時計が静かな音を刻んでいた。
「キスしといて、なにがよかったな、だよ! そのまま帰りやがったら、麻奈美ちゃんと付き合ってやるからなっ!」
政樹が鞄を放り投げる。
それが床に落ちるよりも早く、俺はベッドに組み敷かれていた。
End