『俺の傷と君の傷』

 
 不思議と、落ち着いていた。

 見上げた鳥居の先は暗闇で何も見えない。

 淡い月明かりを眺めながら、石段をゆっくりと上がる。

 長谷田さんはまだ病院にいる。
 俺は落とした携帯電話を探しに社を目指す。

 泣いていたあの場所に、誰かが立っていた。
 燈籠に明かりがついているだけなので、目を凝らしても何も見えない。

 それなのに、依摘なのだと確信していた。

「あの時、神様にお願いしたんだよ」

 穏やかな声に足を止める。
 表情は分からないけど、微笑んでいる気がした。

「泣いてる和哉をなんとかして笑顔にしたい一心で、お願いしたんだ。彼の痛みを俺に下さいって。そうしたら、分かるようになったんだよ」

 依摘が近づいてくる。

 ゆっくり、ゆっくり、俺のほうへ。

「痛いんだね」

 屋上の時と同じように胸元に手をあてる依摘に、治まっていた涙がまた出てしまう。

「俺、一人になっちゃった」
「俺がいるよ」

 俺のすぐ傍で立ち止まった依摘に、俺は目を見開いた。

 燈籠の明かりに照らされた彼は、全身が傷だらけだった。
 腕にも、足にも、首にも、顔にも、沢山の傷。
きっと服の下にもあるのだろう。
 それなのに依摘はすごく穏やかで。

「和哉の痛みは俺の痛みだよ。不思議だね」

 誇らしげに微笑みながら、依摘が両手を広げた。












End


 
8/8ページ
スキ