『花が散る夜』

 
 借りてきた猫のように背を丸めた君は、怯えた眼差しで僕を見ては、また目を逸らす。

 落ちる花びらのようにひらりひらりと踊るその視線。
裏が僕なら、表は彼女。

 名家の女は、廃れかけている家名をいともたやすく浮上させて、親を歓喜で狂わせるだろう。
それを知っているからこそ、君は偽りの愛を彼女に向けて、歪んだ口元で僕にさようならと嘘を吐く。

 婚礼の儀式が明日に迫ると、書生である僕は君の両親に言われるがまま豪勢で優雅な馬鹿騒ぎの準備を手伝う。

 陽炎のように揺れる夕焼けが、僕の瞳を焦がしては雨を降らせる。
それがいつしか月夜へと変化しても、胸中の雨は止まず針となって躯を刺し、僕はのたうつように君の部屋へと足を踏み入れた。

 眠れないのは君も同じらしく、布団はまだ敷かれていなかった。
出て行ってくれと言う君を構わずに抱きしめる。

 同性であり身分も違うが、僕はただ無性に君が好きで、君はただその火に焼かれることを望んでいた。

 皮膚が焦げたように暴れる君を引き寄せて、唇を奪う。
口づけで息を止めた君の震える手を握り、茨の蔓が如く指を絡ませては舌を吸い上げる。

 着物の前を開いて、強引に君の奥深くまで根を張ると、その背中は鏡に映った三日月のように反り返り、唇からは熱を孕んだ低い喘ぎが飛んだ。

 捩込んだ躯の棘は君の皮膚を裂いては血を滲ませるが、それを欲しがっていることぐらい、鮮やかに染まったその頬と、繋がった箇所から生じる熱で分かった。

 硬くなった茎を擦ると、一輪の薔薇が咲き、甘い蜜を滴らせる。

 何度も何度も繰り返す。

それが今日限りの幻になろうとも。


 夢現に全て散るまで。














 
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