09 犠牲あっての幸福
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その澄んだ鈴の音色に誘われたかのように、教会のそばにあった噴水の水が不気味に揺れ始めた。
「なんだ!?」
次の瞬間、噴水の水がまるで生き物のように、ぐにゃりと曲がってレッドとグリーンの周りをそれぞれ囲んだ。
水は円を描くようにくるくると動くとバネのような形になり、完全に彼らの動きを封じる。
不思議なことに、そんな形になっても相変わらず水はジャアア…と勢いよく流れ続けている。
「ちょっと大人しくしててねv」
「な…!お前…!」
「あ、そうだ。動かないほうがいいわよ。それ、そう見えてものすごい水圧がかかってるから、触れると体がちぎれちゃうかもね。」
そう言って笑みをうかべた少女。
それは先ほどまでレッド達に見せていた笑顔とは違う、怪しくて冷たい笑みだ。
「お前、能力者か?」
「そうよ。見ての通り、水の能力。」
「…っ!目的は何だ!?」
あざけるような表情を見せた少女に、レッドは苛立ちながら声をあげる。
「うふふ…、目的はアンタ達の仲間よ。二ビシティの裏切り者の。」
「「!」」
「彼女を捕まえるだけで褒美がもらえるんだもの、こんなおいしい話し逃すわけにはいかないわ。」
それを聞いたレッドはギリッとかみしめる。
「お前も能力者なら、アイツの気持ちわかるハズだろ…!?どんな気持ちで城から逃げ出したと思って「知らないわ。」
レッドに冷たい視線を向けたブルー。
「アタシは自由が欲しいの。他人がどうなろうと関係ない。」
「お前…!」
「オホホ。アンタ達をうまく連れ出せてよかったわ。おかげでアタシの仲間が楽に彼女のこと捕まえられるもの。」
「見くびるな。アイツはそう簡単には捕まらない。」
「それにドアにはちゃんと鍵もかかってんだ!」
「……そんなの無意味よ。あの子の前ではね。」
少女は余裕の表情をうかべ、鈴を構える。
「お前、何者だよ!」
「アタシ?アタシは、ブルー。マチス様に仕える臣下よ。」
「!」
「まあ、もう会うことはないから名乗っても意味ないか。じゃあねー♪」
ブルーと名乗った少女が鈴をリンと一振りすれば、水が彼女を包み、彼女ごと一瞬で消えた。
「くそっ!」
レッドは地団太を踏み、やりきれない怒りを地面にぶつける。
「(イミテ、逃げろ…!)」
「え…?」
「どうしました?」
「ううん。少し胸さわぎがしただけ。」
イミテはイエローに心配かけないようにと、にっこりと微笑む。
「レッド達、遅いね。」
「そうですね。僕、様子を見てきましょうか?」
「ううん、外は危ないからもう少し待とう。」
そんな会話をしていると、コンコン、とノック音が聞こえた。
「あ!噂をすれば…、きっとレッドさん達ですよ!僕でますね!」
「待って、イエロー!」
扉のほうへ走っていったイエローをイミテが止めた。
「もしレッドならノックするより、何か一声かけるはず。扉の向こうにいるのは違う人だよ。」
「!」
「扉から離れて。」
イミテは傍らにあった弓を手に取り、ギリッと矢をひいてかまえる。
……しかし、それから数分たっても再びノック音が聞こえることもなければ、扉が開く様子もない。
「誰も来ませんね…。」
「…。」
もしかしたらこの宿の宿主だったのかもしれない。
そう思い、イミテが弓をおろした。
その刹那、
ガシャンッ!
部屋の窓ガラスが音をたててわれた。
「!」
あわてて弓矢を構えるが、間に合うはずもなく、イミテの目の前で、ギラリと銀色に光る剣の切っ先が向けられる。
「お前が二ビの裏切りもの…だな?」
彼女に剣を突きつけているその人物は、まぎれもなく昼間路地裏で会った少年。
「何の用?」
イミテは冷や汗をうかべながら問う。
「……お前を捕まえにきた。」
われた窓から吹きこんできたいたずらな風が、少年の赤髪を不気味に揺らした。
いけないと分かっていることを
やらなければいけない時もある
そんなとき、
どれだけ自分の心を騙せるのだろうか
.