09 犠牲あっての幸福
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「……私、小さい時に家族をなくして、ずっと1人だから…。」
「え…?」
「だからこんなふうに他の人と話すのも久々で…もっと話したいなあって思っちゃったんですよ。……ごめんなさい。」
目にほんのりと涙をためながらも、無理につくった笑顔が逆に悲しさをひきたてた。
「じゃあ、私はこれで「なあ。クチバシティの案内頼んでも良いか?」
「え…!?いいんですか…?」
「ああ。よろしく頼むよ。」
レッドが笑えば、少女も嬉しそうな笑顔を見せる。
「嬉しい!ありがとう!!とびきりの場所、案内しますねっ!」
胸の前で手を合わせて弾む口調で嬉しそうにしている少女。
レッドもイエローもイミテも微笑ましくその様子を見ていたが、グリーンだけは違った。
「(この女の笑顔…)」
その笑顔に違和感に覚えたのだ。
まるで内に別のものを秘めているような、そんな笑顔だ。
「レッド、俺も行く。」
微塵も疑っていない様子のレッドを、得体もしれない少女と2人きりにするのは危険だと思い、グリーンもそう言う。
「わあ…!嬉しいです!」
「………。」
少女はまた笑った。
「イミテとイエローはここにいろ。鍵は開けるな。」
「うん。」
「行ってらっしゃい!」
パタンと扉が閉まったのを確認すると、イミテはしっかりと鍵をしめた。
それからしばらくレッド達3人はクチバシティを見て回り、最後に港にやってきた。
「おい、聞いたか?ニビの話し。」
「聞いた聞いた。軍人のやつだろう?」
噂は未だに広がっているらしく、あちこちで人がひそひそと話しをしている。
「次は船を案内しますね。」
しかし不思議なことに少女はそんなことは全く気にしていない様子で、特に変わったそぶりも見せず案内を続けた。
「これがサントアンヌ号と言って、クチバの自慢の港船なんですよ。」
「へー…。」
レッドはさっき会長に説明を受けたから大体のことは分かっていたが、とりあえず返事をしておいた。
そして港からしばらく歩くと徐々に人が減って、やがて一軒の建物が見えてきた。
「最後に…、」
少女は手を大きく広げ、自慢気な顔をして言う。
「これがクチバシティで唯一の教会です。」
教会の入り口には神秘的な像が立っていて、その近くには大きな噴水があった。
神秘的な像や装飾もほどこされていて、建物の外装もなかなか綺麗だ。
「教会か!すっげーな!…それにしても、人、少なくないか?」
レッドの言うとおり、周りには全く人がいない。
少女が言っていたように唯一の教会ならば、もっと人がいてもいい気もするのだが…。
「特別な許可書がないと中には入れないから、関係者以外はわざわざこっちのほうまでこないんです。」
「ふーん。君は持ってるの?それ。」
「いいえ。だから案内できるのはここまで。残念だけど中には入れません。」
「それに…」と少女は付け足す。
なんとなく、声のトーンが低くなった気がした。
「たとえ許可書を貰えたとしても、私は教会の中には入らないですよ。」
「…理由は?」
グリーンが聞くが、少女はそれには答えずあるものを取り出した。
「鈴…?」
「違う。鈴のついた仏具だ。」
それは祈りを捧げる時に使う道具。
「なんだ。仏具持ってるってことは、神を信じてるってことだろ?」
「まさか。」
少女はバカにしたような笑みをうかべる。
「神様なんているわけない。もし、そんなものがいたとしたら…、」
少女は仏具を持った右手を高く挙げて、シャラン、シャラン…と鈴を鳴らした。
「こんな能力、授けないもの。」
冷たい笑みと共に。
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