00 知られざる能力
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「お前が感じる違和感は…、記憶喪失と関係している。」
「…やっぱり…。」
レッドはポツリとつぶやいた。
何となく、感づいてはいたのだ。
心にぽっかりと穴があいたような気がして、でも、思い出せずにいたから。
「……もう1人。」
「え…?」
「…昔は、俺とお前と…もう1人ここにいたんだ。それが当たり前で…俺達の日常だった。」
「もう、1人…。っ!」
レッドが急に頭をおさえた。
記憶を思い出そうとすると現れる症状。
頭に鋭い痛みがはしる。
幸い頭痛はすぐにおさまったようで、レッドは深いため息をついた。
「(やはりまだ無理か。)……レッド、お前がそいつのことを忘れているのは、そいつの存在がお前の中で大きかったからだ。」
「……。」
「お前は自分自身を壊さないように、そいつの存在自体を記憶から消した。だからこうして無理に思いだすより、自然と思いだすのを待つほうが無難だろう。」
「…そう、だな。」
レッドは力なく笑った。
大切なものを忘れているという不安ともどかしさが、彼に重くのしかかっている。
「…時間はたっぷりある。焦る必要はない。」
「…ああ。」
グリーンという親友がいなければ、レッドはそれらに押しつぶされて、自分を見失っていただろう。
辛気くさくなってしまったので、グリーンは話題をかえることにした。
「そういえば、おじいちゃんに山に薬草をとりに行くように頼まれた。レッド、お前は先に帰っててくれ。」
ちなみにおじいちゃんというのは、グリーンの祖父で、この町の長老でもある。
町の皆をまとめられるほどのリーダー性のある人で、皆からはオーキド博士と呼ばれ親しまれていた。
「薬草なら俺がつんでくるよ。…少し1人にもなりたいし。」
「そうか。じゃあ俺は先に戻るぞ。」
「おう!またな!」
元気よく走っていくレッド。
そんな彼の後ろ姿を見て、グリーンはほっとした様子で口元を緩めた。
…次いで、さっき言った自分自身の言葉を思い出す。
“…昔は、俺とお前と…もう1人ここにいたんだ”
“それが当たり前で…俺達の日常だった”
そう、もう1人…この場所にいた。
弓矢を得意とする、明るくて、ふんわりと優しく笑う少女が。
数年たった今でも、彼女の風になびく髪や、周りを和ませる雰囲気を、鮮明に覚えている。
「……くそ!」
やりきれない気持ちになって、グリーンはぐっと拳をにぎった。
レッドが忘れている記憶、それはグリーンにとってもトラウマになっているのだ。
「(…俺もレッドのように、アイツのことを忘れられていたら…、楽だったかもしれないな…。)」
グリーンは静かに思い出していた。
自分が守りきれなかった少女のことを。
その少女の名は……、
「(…イミテ。)」
ほんのりとオレンジ色に色づいた空を見上げながら、彼は心の中で静かに呟いた。
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