04 動き出した歯車は
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「なんで?」
「え…」
「なんで…何も言ってくれないの?」
その表情は、まるで今にも泣きそうで。
「…ねえ、覚えて…ないの?私のこと…。」
イミテはギュッと、気づかれないように拳を握る。
思いきって聞いた。
一番、聞きたくなかったこと。
一番、そうであってほしくないと願っていたこと。
「………。」
レッドは思わずうつむく。
自分は、彼女のことを知っているハズだ。
そう、知っている…。
必ず、どこかに答えがあるはずなのに。
どうして―……。
どうして、たどり着けないんだろう。
「…覚えて、ないんだね。」
小さくつぶやかれたイミテの言葉に、レッドは顔をあげた。
「え…?」
イミテの目からツウ…と、一筋の涙がこぼれる。
声をあげるわけでもなく、苦痛の表情を浮かべるわけでもなくて。
ただ無表情のまま、本当に自然に…泣いていた。
「イミテさん…、」
唖然とする2人を見て初めて、自分が泣いていることに気がついたイミテ。
服の袖でグッと涙をふいて、顔をそむけながら言った。
「ごめん…、ちょっと混乱しちゃってさ…1人にさせて…。」
「1人じゃ危ないですよ!僕も一緒に…」
「平気。」
イエローにさらっとそう返すと、イミテは少し早足で歩き出す。
すぐに森の奥に消えて、見えなくなってしまった。
次いで、レッドがまるで力がぬけたかのようにその場に座り込む。
「レッドさん…!イミテさんと何があったんですか…!?」
「分からない…」
「なんなんですか!イミテさんが、あんな表情(かお)するなんて…、絶対、よっぽどのことがあったはずです!ちゃんと思い出してください!!」
イエローが思わず声をはりあげてレッドに言う。
「仕方ないだろ!思い出せないんだから!!」
レッドも思わず声をあげて、その場に気まずい雰囲気が流れた。
「悪い…」
「いえ、僕こそ…」
レッドはふうーっと気持ちを落ち着かせるように息をはく。
「……覚えてるはずなのに、思い出せないんだ。」
「覚えてるはずなのに?」
「ああ…。絶対に、知ってるはずなのに…。」
自分を見つめるあの綺麗な澄んだ目も、風になびく細い髪。
たしかに、なつかしさを感じた。
そうだ…、あの頃は、
彼女はキラキラとした表情で、『レッド』と笑顔で自分を呼んでいて。
1つ1つが、優しくて温かいもので。
でも、それはいったい、いつの話し?どこの話し?
やっぱり、分からない。
分からない、けど―…。
イミテのことを考えるとうかんでくるのは、故郷―マサラタウンの情景で―……。
「……!」
痛みが襲い、レッドは顔をゆがめた。
「大丈夫ですか!?どこか怪我とか…、」
「いや…、怪我じゃない。平気だ。」
「でも…、」
言葉を濁したイエローに、レッドは苦笑してつぶやくように言った。
「よく思い出せないけど…、少なくとも、あんな顔させたくなかったのは…たしかだ。」
(きっと、)
(一番、大切だったのに)
(一番、守りたかったものなのに)
「…だったら、追いかけるべきです。」
イエローが力強い口調で言った。
「追いかけても、なんて声かければいいか…、」
「でもきっと…今、イミテさんを1人にさせちゃいけない気がするんです!」
「イエロー…。」
「行ってください、レッドさん。行かなきゃ、ダメです。」
「ね?」とイエローは優しく笑った。
それを見てレッドは「…ああ。」と短くつぶやいて立ち上がると、イミテが消えた方向に走っていった。
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