00 知られざる能力
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マサラタウン。
汚れなき場所として知られているこの町は、自然豊かで平和な田舎町。
その町の中心から少し離れた草原に、2人の少年の姿があった。
「はー、疲れたー!ちょっと休憩。」
そう言ってゴロンと芝生の上に横たわる黒髪の少年…、彼の名前はレッド。
明るく好奇心おうせいな少年で、どんなものにでも立ち向かう正義感も持ち合わせている。
ゆえに、悪いことは悪い、そうズバッと指摘でき、皆からの信頼もあつい。
「それぐらいで休むな。」
ため息をつきながら、刀の素振りを続ける茶髪の少年は―…グリーン。
容姿が整っているうえに頭もよく、常に冷静さを忘れず的確な判断ができる…、クールで落ち着いた性格だ。
レッドとグリーン。
ある意味性格が正反対な2人だが、彼らは一緒にいることが多い。
特に約束をしているわけではないが、2人とも時間が空くとこの草原に来て剣の修行をする。
お互いにライバル視して張り合っていたためか、彼らの剣術はみるみるうちに上達した。
今では大人にも通用するほどの腕前だ。
「グリーンも一緒に休もうぜ。さっきからずっと動きっぱなしだろ。」
「お前の休憩は長すぎて付き合ってられん。」
「相変わらず真面目だなー。グリーンは。楽しくやろうぜ、楽しく。」
「……。」
昔はよく意見がぶつかりあい喧嘩をすることもあったが、今では彼らは、ライバルかつ最高の親友だ。
ここまでの説明からは、2人はごく普通の少年達に思えるだろう。
…でもそれはあくまで、“ここまで”の話にすぎない。
実は、レッドはある問題をかかえていた。
「なあ…グリーン。」
レッドが急に真剣な口調になって、グリーンに呼びかける。
「…なんだ?」
そんな彼の様子を察し、グリーンは素振りをやめて、今度はしっかりとレッドのほうに目を向けた。
「なんだか…、何かが…足りないような気がするんだ。」
戸惑い気味にそう言うレッドには、普段の明るさなど全く感じられない。
ただただ、寂しそうに呟く。
「…マサラタウンが嫌いなわけじゃない…むしろいい町だ。グリーンとこうして毎日、一緒に剣の修行もして……なにも、不満に思うことなんてないハズなのに、さ…。」
「……。」
「こうしてると…なにか、大事なものがもう1つあったんじゃないのかって、いつも思うんだ。」
「!」
「これってやっぱり、記憶喪失となにか関係があるのか?」
そう―…記憶喪失。
それは数年前にレッドを襲った。
ただ、自分の名前も出身地も親友のグリーンのことも町の皆のことも、全て覚えている。
忘れていることは、たった1つだけ。
…1人の少女のこと。
もちろんレッドは何について忘れているのかさえ、記憶がいない。
「グリーン、頼む。教えてくれ。」
「………。」
グリーンは思わず黙りこむ。
レッドが忘れている記憶、そしてレッドが記憶喪失になった原因を、グリーン、そしてマサラタウンの皆は知っている。
しかし、レッドが忘れている過去は思い出すにはあまりに辛いものだ。
今では町の皆が、そのことについてはそろって触れないようにしている。
「…どうしても、思い出したいのか?」
グリーンの問いかけに、レッドは黙って頷いた。
その意志は固い。
「………。」
グリーンは空をあおぎ、考える。
しばらく沈黙が続き、やがて彼は口を開いた。
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