31 守るための武器とは
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「イミテ先輩!!!」
バタン、と、大きな音をたてて扉が開いた。
「ゴール、ド、」
イミテから声がもれる。
震えたままの、声。
その場の光景を目にしたゴールドは目を見開く。
敵と思われる黒いスーツの男がイミテを組しいていて、数メートル離れたところではグリーンが自分の首もとに折れた刀の先を当てている。
ポタリ、ポタリ。
刀をつたって、赤が地面に落ちる。
「、」
驚いて動きを止めてしまったのはほんの一瞬で、次に行動するまでには時間にして1秒もかからなかった。
ゴールドは半ば反射的に棍棒をふる。
ひとふりで瞬時に電気が発生したかと思ったら、サカキが「くっ」と声を漏らした。
「(イミテ先輩が人質になってることは明白だ、だったら…)」
別に決定打にならなくてもいい。
とにかく速くと思って能力を発動させた。
そのせいかいつもよりも威力は弱かったが、おそらくそれが最大速度……この場にいる誰も、ゴールドの攻撃の瞬間をとらえることはできなかった。
一瞬でいい。
敵をひるませることができれば、あとは…。
「!」
バッと、間髪いれずにグリーンが、折れた刀をサカキに向けて投げる。
ゴールドの攻撃による痺れもあって上手く動けない様子だったが、ギリギリのところでサカキはそれを避けた。
「!」
剣は避けたが、なぜか手首に衝撃を受ける。
その原因は、サカキが攻撃を避けることに気をとられイミテをおさえていた力が弱くなり、今度はイミテが攻撃をしかけたためだった。
背中で拘束されていた手を素早くふりほどき、サカキの手首目掛けて手刀打ちをしていた。
予想外の衝撃に、サカキが手にしていた本は手からこぼれ落ち、
「グリーン!」
それをイミテがグリーンの方へ蹴り飛ばす。
「貴様…!」
サカキがイミテに斬りかかろうとするが、先程の動きに驚いたからかイミテの肩あたりを押さえつけていた足の力はすっかり弱まっており、媒介の本が手元から離れたことで闇の能力による足の拘束もなくなった。
瞬発力と反射神経が自慢のイミテにとって、動揺しているし痺れもまだ残っているし、さっきまで自分を拘束していたため窮屈な体制からくり出されるサカキの攻撃をかわすのは簡単だった。
バッとはねのけ軽く攻撃をかわすと、イミテはグリーンの元へと走っていく。
サカキがそのあとを追って駆け出すが、
「先輩達には近づかせねえ!」
ゴールドが立ちはだかる。
「っ、ゴールド!そいつの剣術は俺以上だ!なるべく遠距離、で、」
話している途中で、グラリとグリーンの身体が傾いた。
「グリーン!」
グリーンの元へとたどり着いたイミテが彼の身体を支える。
「っ、平気だ、」
そう言いつつも立っていることはできなくて、グリーンはそのまま崩れるように床にしゃがみこんだ。
イミテが首もとに当てられている彼の手をゆっくりとはずすと、傷口からは結構な量の血があふれでていて。
「(思っていた以上に深い…っ、)」
イミテはグッと唇を噛みしめ、震える手で、自身の羽織りを脱いだ。
それを適当に折り畳むとそのままグリーンの傷口に押し当てる。
今まで肌に触れていたものだから清潔とはいえないが、気にしている場合ではない。
とにかく血を止めないと、グリーンが、
「イミテ。」
完全に動揺しているイミテの名前をグリーンが呼んだ。
「見た目ほどひどいものじゃない。大丈夫だ。」
なるべく落ち着いた声でそう言い、イミテの頭に手を置く。
置いたあとに自分の手に血がついていることを思い出したがもう遅く、イミテの髪に赤がうつった。
思わず引っ込めようとした手を、イミテが掴んで、ギュウ…っと握る。
「……バカ」
バカだ、グリーンは。
こんな時まで、人のことばかり考えていて。
「なんでっ…、」
その先は言葉がつかえて出てこなかった。
彼が怪我したのは自分のせいなのに、どうして、
言葉の代わりに涙を流すイミテを見て、グリーンは荒い息をしながらも穏やかに笑った。
「…よかった…。」
「なにが、」
「守れて、よかった…。」
グリーンには珍しい、優しい笑みに。イミテは頭が真っ白になる。
なんで。どうして。
どうしてそんな、愛しい人に向けるような表情を―。
「…イミテ。お前のことが好きだ。」
イミテの心の中を読み取ったかのように、グリーンが言う。
「、」
ピクリ。
自分の首もとに当てられている布を押さえている彼女の手が動いたのが分かった。
信じられないというような、困ったような、どうしてと聞いてくるような、泣きそうなような。
……そんな表情だった。
「(ああ……)」
これだから、一生、言うつもりなんてなかったのに。
伝えるつもりなんてなかったのに。
死ぬかもしれないというこの状況にのまれて。雰囲気にのまれて。
言ってしまった。
そんな表情(かお)させることぐらい、分かってたのに。
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