31 守るための武器とは
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「妙に仲間意識が強いところがお前たちの弱点だな。」
本から黒い紐状のものがでて、イミテに向かって一直線にのびていく。
イミテはすぐにまた扉に向かった走り出したが、そのムチのようなものの動きのほうが圧倒的に速い。
それはイミテの左足首にグンッと巻き付いた。
「な、」
グイッとそのまま足首を軽くひかれ、イミテは床に倒れる。
「イミテ!」
立ち上がろうとしたグリーンだったが、先ほどのサカキの攻撃のダメージが残っていて思うよう身体が動かない。
それでもせめて、と、幸い手の届く範囲で伸びていた黒いムチに刀を突き立てるが…
「!」
パキンという音とともに刀が折れた。
丁度ムチに当てた部分からぱっくりと真っ二つに。
「……!」
グリーンも、イミテも、その事実に目を見開く。
「いい忘れていたが、それに力を加えようとするとその分の力がそのまま自分に返ってくる。むやみに攻撃しない方がいい。」
そう言いながらサカキが本を手前に少しだけ動かすと、連動するようにそこから伸びているムチに力が加わる。
「!」
ズズズ、と、床をずるようにイミテの身体がサカキの方へと引きずられる。
結構な勢いだったが、グローブをつけている左手で受け身をとっていたため、引きずることによる傷は最小限に押さえられそうだが、それよりも、
「っ…、」
ムチが巻き付いている左足首の痛みに、イミテは顔を歪めた。
ムチは革でできたブーツの上から巻き付いており、血が止まるほど強く巻き付いているというわけでもない。
しかし足首はジンジンとした痛みを感じていて、足以外になぜか心臓にも、直接響くような妙な痛みを感じていた。
おそらくこれも闇の能力特有のものなのだろう。
なすすべもなくイミテはあっという間にサカキのところまで引きずられた。
サカキは片手で、うつ伏せの状態のイミテの両手を背中でまとめあげて押さえ、膝で背中をおさえつける。
そしてもう剣を持っているもう片方の手で、イミテの髪を乱暴に掴んだ。必然的に顔の近くに剣がある状況だ。
シャラン…と反動で髪飾りが小さく音をたてた。
「動くな。その刀はもう使い物にならないだろうが、最後の悪あがきで能力を使われたら厄介だからな。」
サカキはグリーンの能力が限界だということを知らない。
知られていないのがせめてもの救いだった。
グリーンが能力を使えないと知ったらサカキは容赦なくイミテを攻撃していただろう。
「っ…!グリーン!逃げて!」
武器もなく、人質をとられ思ったように動けないこの状況ではもう勝算はない。
それを察してイミテは叫ぶように声をあげる。
「仲間をおいて逃げるか?まあそれもいいが…、そうなれば俺はお前が逃げる前にコイツを殺す。」
剣先が、イミテの頬に触れた。
それに反応したのはイミテではなく、グリーンで。
喉元がごくりと動いた。
「選ばせてやる。お前が先に死ぬか、コイツが先に死ぬか。仲間の死ぬところは見たくないだろう?」
喉をならして、楽しげにサカキは言う。
「自害しろ。その折れた刀でも首もとを斬ることぐらいは簡単にできるだろう。」
「なに、言ってるの…、?」
今度はグリーンではなく、イミテが動揺を見せた。
言ってることが分からない。
事態が、のみこめない。
「ふ、ふざけないで、」
言葉が震えてしまう。
だって、だって、
そんなこと言われたら彼(グリーン)は絶対、
「…条件がある。」
グリーンは特に焦った様子もなく、いつも通りだった。
「俺が死ぬ代わりにそいつのことは、殺すな。」
「グリーン、っ、」
イミテが言いかけたところで、肩をおさえられている膝にグッとさらに力がこもり空気がもれた。
グリーンの眉間にシワがよる。
「筋違いもいいところだ。別にお前が先に死のうが後にしようが、どちらにせよ俺はどちらも殺す。活かしておいたところで、俺になんのメリットもないからな。」
「緑の能力者だ。かつてはニビの軍にいた。軍事力にはなる。」
「それは知っている。一度は軍を裏切った卑怯者ということもな。なおさら不必要だ。忠誠心を持ち合わせていない軍人ほど使いにくいものはない。」
予想通りの答えだった。
こんな一方的な条件のむはずがない。
それでもいい。時間稼ぎぐらいにはなる。
もう少し引き延ばして……、
「無駄話はここまでだ。」
ぴしゃり。サカキは言い放つ。
「さっき言ったように、おまえが先に死ぬか、コイツが先に死ぬか。ただそれだけだ。さあ、どうする?自分が可愛いか?」
「(これ以上は無理か…。)」
グリーンは迷った様子もなく、首もとに刀をもってくる。
「!やだ!やめて……っ、グリーン!!」
イミテが、声をあげる。
じわりと目が熱くなるのを感じた。
「やめて…!グリーン!グリーン!」
分かっていた。自惚れではなく。
自分が人質にとられたら、グリーンは動けなくなることを。
だからこそ、この場から離れるというグリーンの考えにのったのに。
こうなることを、一番恐れていたのに。
「や…、いやだ……っ、」
嫌だ、嫌だ、
そんなの、嫌だ。
そんな悲劇、見たくない
「グリーン…!!」
無理に暴れたことで顔の近くにあった剣があたり、イミテの顔に細かい傷をつくっていく。
その痛みに気づかないほど、必死だった。
目にたまっていた涙が床にポトポトとおちる。
「(ああ……)」
グリーンは、それだけで満足だった。
イミテがそんな反応をするのは、
レッドだけだと思ってたから。
自分のためにも泣いてくれるのだと。必死になってくれるのだと。
サカキはイミテを殺すと言っているが、後程レッドやゴールドが来ることを考えて、すぐには殺さないだろう。
自分には無理でもレッド達が何とかして、イミテは助かるかもしれない。
それならば迷うものは何もない。
それに、ここでまた妙に時間稼ぎをしようとしてイミテが傷つくことのほうが、…怖い。
「っ、グリーン!!や、」
「また、背負わせることになるな。悪い。」
所詮は自分が一番大事はのかもしれない。
なぜならそれは。
彼女を助けたい、守りたいなんていう偽善で。
自分は彼女が死ぬところを見たくないというわがままで。
優しいイミテのことだ。
こんなことがあれば絶対に自分のことを忘れられなくなる。心の傷が残る。
自分のせいだとずっと自分を攻め続け後悔し続けるだろう。
けれど。そうすれば。
苦しい思い出だとしても、ずっと自分はイミテの中に生きていられる。
そんな…、歪んだ愛情。
「…、」
ゆっくりと力をこめれば折れた刀の先が皮膚に食い込んだ。
プツリ、皮膚が切れる感覚と軽い痛みを感じる。
「ッ、グリーン!!」
一気に斬ろうとしなかったのは、
もはや悲鳴に近い声色で自分の名前を必死で呼ぶ彼女の声を聞いていたかったからか、
もうイミテと二度と会えなくなることを惜しんでいからか、
「い、やあああああああ!!」
.