31 守るための武器とは
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「(くそ…!)」
焦りすぎたのかもしれない。
もっと、この城にいる全ての敵の数や配置、建物の内部構造、サカキの武器や強さ、それぞれの能力をどう活かして戦うか。
たとえ時間がかかったとしても、全てを計算して、緻密な作戦をたてるべきだった。
それを促すのは、自分の役目だったはずなのに。
もう泣いてる顔は見たくなくて、
悲しんでいる顔は見たくなくて、
“3人でいろんなところを旅したい!それで、たくさん思い出をつくるの!”
昔みたいに。
夢や希望で満ちた瞳で、楽しそうにただ笑っていて欲しくて。
早くそんな未来を手に入れたくて。
気持ちばかりが先走った。
その結果が、これだ。
「(イミテだけでもこの場から、逃がすことができれば…)」
こうなってしまった今、せめてイミテだけでも助けたい。
たとえ自分が囮になってでも。
さっき自らを犠牲にしても自分達を先にいかせた親友(レッド)の気持ちがよく分かってしまって、グリーンは苦笑する。
イミテを含め自分達は、いつも自分以外の幸せを願っていたのだから。
「……」
サカキが再び攻撃をしようと、じりじりとグリーンとの間合いをつめる。
グリーンは一瞬のうちにイミテの元へと駆け寄り、再び床に刀を突き刺し、能力を使う。
今度は壁ではなくドーム状。
ドームの中にグリーンとイミテが入っている。
隙間から光がもれないぐらい完全に塞いだため、先ほどより少しだけ強度も高い。
「グリーン、これって…」
真っ暗な光のささない空間で、突然のことに驚きながらもイミテが聞く。
グリーンはいつもの、冷静をよそおった口調で言った。
「土のドーム…のようだな。なるべく頑丈なものをイメージして能力を使ってみたんだが案外初めてでも上手く創れるものだな。」
頑丈なぶん、建物付近の土を多く使うから、今ので地盤がかなりゆるんだだろう。
建物が崩れる可能性を考えても、……自分の能力が使える限界を考えても。
もう大地の能力は使えない。
けれどこれからしようとしていることを考えると、その事だけは、イミテには秘密にしなければいけなかった。
「そういうことじゃなくて、どうしてこんなものを創ったのかを聞いてるの。」
「わずかでも、作戦をたてる時間を作りたかった。」
ズウウン、とドームに鈍い振動が加わる。
サカキが外から攻撃しているのだろう。
このドームもいつまでもつか…思ったよりも与えられた時間は短そうだ。
「イミテ。お前はこの戦闘から逃げろ。」
「なにを、」
「剣術に関していえば、サカキは俺よりも強い。俺とアイツが剣を交えるのを見て、お前も悟っただろう?」
「そうだとしても2人で戦えばなんとかなる!さっきは様子見で私は何もしなかったけど、今度は2人で、」
「専門の武器のない今のお前じゃ、はっきり言って足手まといだ。」
「…っ、」
ぐっと、イミテが息をのむのが気配で分かった。
きつい言い方だというのは重々承知している。
「それでも、逃げるなんてできない。」
強い、はっきりとした口調だった。
そのまま逃げてくれることを一番に望んで言ってみたのだが…まあ案の定だ。
きつい言葉を言ったところでイミテが納得しないことも、同じくらいに分かっていた。
「ただ逃げろとは言っていない。とりあえず、一旦この部屋からでるだけでいい。」
「どういうこと?」
「ここは地下だ。武器庫がある可能性が高い。お前は一旦この戦闘から逃げて、武器庫に行き、そこで武器を調達してきてくれ。矢さえあればお前の能力が使える。」
「…その間、グリーンが1人でサカキと戦うことになる。」
少しの沈黙の後、イミテが言う。
それが一番最善であることぐらいイミテ自身も分かっているのだがやはり心配なものは心配なのだ。
「なるべく接近せずに戦う。闇の能力は使った相手にもダメージがある。そう何度も大きい技は使えない。」
「でも、」
「それと、本当に危ないときはこのガードを作って時間をかせぐ。次はもっと頑丈なものをイメージして作れば今以上に長くもつ。」
これは、嘘だ。
もう大地の能力は使えない。
ただイミテをこの場から逃がすことができれば良かった。
それこそ運よく武器庫を見つけて彼女が武器を手にできれば最高だが、
最悪自分が囮となって時間を稼いで、その間にレッドやゴールド達がかけつけてくれれば、これほどの強敵でもどうにかなるかもしれない。
サカキから少しでも遠くへ離れてほしい。
少なくともここに2人でいるよりはイミテが助かる可能性はずっと上がる。
「大丈夫だ。お前が戻ってくるまで持ちこたえられる。」
相変わらずの暗闇だが伝わるように優しく笑った。
嘘をついてでも、なんとかイミテだけは。
「……うん。」
小さく返された言葉に、イミテにはバレないようにほっと息をつく。
丁度そのとき、ぐらりとまたドームが大きく揺れた。
「そろそろこれも限界らしいな。ガードをとくぞ。ガードがなくなったらすぐに扉へと向かえ。俺はサカキをくいとめる。」
「分かった。」
「いくぞ。3、2、1…」
カウントダウンをして、地面のガードをとく。
ボロボロとまだ土が完全に崩れていないため手で残った土を払いのけながらも、作戦通り、グリーンはサカキと剣を交えヒロインは扉に向かって走り出す。
「ずいぶん長い作戦会議だったようだが…俺がそう簡単にお前らの考えたことを実行させると思ったか?」
「なにを」
サカキ、にやりと笑う。
「誰が戦いの場から逃げていいと言った?」
その言葉と同時に、サカキは剣を持っていない左手で本を取り出す。
「!」
何をする気かは分からないがとにかくくい止めなければと、グリーンは一旦刀を交えるのをやめ本に狙いを定めてもう一度素早く刀をふる。
しかし、また剣で止められた。
本を手から離させることはできないままだが、両手でないと本を開くことはできない。
このままなんとか持ちこたえられれば……
「イミテ、急げ!」
思わず声が大きくなる。
ジリジリと、剣と刀の押し合いが続くなか、サカキが再び妖しい笑みをうかべた。
「手加減するのにも飽きたな。力が足りないという忠告を聞いていなかったのか?」
一瞬。
ぐいっとサカキがグリーンに押し勝ち、刀をはじいた。
グリーンはすぐにまた斬りかかろうとしたが、それよりも早くサカキが本を開く。
「(しまっ、)」
本から勢いよく飛んできた黒い塊がもろに身体にぶつかり、反動で数メートル後ろへととばされる。
「ぐっ、」
グリーンの口からもれた声がイミテに届き。
丁度扉まであと数メートルというところだったが、イミテは反射的に振り返ってしまった。
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