30 心の奥深くに眠る
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レッドとキョウとの戦いで、暖炉が音をたてて崩れた時。
ことを起こしていたのはグリーンだった。
「っ…、これが限界だっ…」
苦しそうにグリーンが言う。
建物が崩壊しないように、かつ、暖炉に人が通れるぐらいの穴ができるように。
能力を寸分の狂いもなくコントロールするのは、彼の精神をすり減らした。
しかしそんな努力は虚しく、穴はごく小さなもの。
「この大きさだとグリーンは無理そう。私も…肩がつっかかるかな。イエローは、」
「僕はぎりぎり通れそうです。こうやってほふく前進で進めば!ほら!」
そういってイエローは嬉しそうに笑うが、イミテもグリーンもそれを素直に喜べなかった。
イミテやグリーンならば加勢をすることができるが、イエローには戦闘能力はない。
レッドと合流したところで彼女にできるのは治療のみ。
ましてや相手はキョウで、彼の毒はイエローの光の能力では治療できないだろう。
きっと普段の戦闘ならば躊躇なく止めていただろう。
でも今は…違う。
「イエロー。ごめん。レッドのこと、お願いできる?」
「!イミテ!」
「分かってる。正直言って、イエローがレッドに合流してプラスになるかマイナスになるかは分からない。イエローは傷の治療はできるけど、その分レッドがイエローを守りながら戦うことになって負担は増えるかもしれない。」
イミテは俯く。
分かっている、そんなこと。
だけど。
「……それでも…、レッドに独りで戦ってほしくない。」
「イミテ…」
「イミテ、さん…」
しばしの沈黙の後、イミテはごめん、と微笑んだ。
「私のわがままだね、こんなの。レッドのこと信じてないわけじゃないんだけど、不安で、」
「大丈夫ですよ!イミテさん!」
イミテの言葉を遮って今度はイエローが笑う。
次いで、くるりと身体を半回転し、腰にささっていた短剣を指差してイミテに見せる。
「僕、戦うことはできないかもしれないけど、自分の身を守ることぐらいはできます!そのためにイミテさんとブルーさんに僕専用の武器を選んでもらったわけだし、それに、これでもレッドさんやグリーンさんに、護身用の剣の扱い方を教わってたりしたんですよ?」
へへっと、照れくさそうに彼女は笑う。
そして、言う。
だから僕に行かせてください、と。
「イエロー。お前自身危険にさらされるということだぞ。」
「そんな事この戦いに参加したときから覚悟してますよ。今更です。」
「…そうか。」
揺らがないイエローの意志に、グリーンもフッと笑みをうかべた。
「…じゃあ、行きますね。」
「…イエロー。」
イミテがイエローの手を取り、両手で包み込むようにぎゅっと握った。
イエローは一瞬驚いたけれど手から伝わってくる体温になんだか安心して、ふっと、肩の力をぬく。
「レッドのこと、お願い。」
「はい!」
大きく頷いて今度こそイエローは壁にできた穴へと入っていった。
「…。」
イミテはその様子を固唾をのんで見守る。
本人は気づいていないが、無意識のうちに胸の前でギュッと手を固く握っていた。
まるで、祈るように。
「…イミテ。俺達も行くぞ。」
グリーンがその手に自身の手をそっと重ねて言う。
特に意識した行動でもなかったが、イミテの手に触れて気が付いた。
…不安なときに人肌があると、体温を感じると、ひどく安心する。
きっとさっきイミテは、イエローの心の底にあったであろう不安を感じ取って、本能で彼女の手を握ったのだろう。
「(本当に適わないな、コイツには…)」
フッとグリーンの口元が緩む。
それに気づいてイミテは「なに?」と怪訝そうな顔をするが、「なんでもない。」とだけ返した。
「それより、今後敵に遭遇したらお前はとりあえずさがれ。」
「…。なんで?」
「分かっているんだろう?さっきの戦いで矢はなくなった。言っておくが剣や閃光弾を持っているから戦える、というのは無しだ。使えるといっても専門外だろ。」
「…はは、全部お見通しか。分かった。メインの戦いはグリーンに任せて、私は遠くからできる範囲で補佐にまわるよ。それぐらいはいいでしょ?」
イミテの発言にグリーンは目を見開いた。
こんなにもあっさりと引き下がるとは思わなかったからだ。
グリーンの思考をくみ取ったのかイミテは少しバツが悪そうに笑った。
「いつもの戦いなら無理をしてでも一緒に戦うって言ってただろうけど、ここは敵の本拠地だから。慣れない武器で戦うよりかはグリーンに任せたい。」
「そうか。」
グリーンはしれっとした返事をしながらも、心の中では嬉しく感じていた。
イミテがこうして素直に他人に頼ることは珍しい。
「レッドとイエローが、あの部屋に残った私の矢を持って来てくれるまでの間だけどね。」
「フッ…そうだな。」
信じている。
2人とも無事に戻ってきてくれることを。
「ナツメやキョウが手こずっていると聞いたが、ただのガキじゃないか。」
「「!」」
突然話し声が聞こえてきて、グリーンは自分の陰にイミテの身を隠すように、一歩前にでた。
「誰だ!」
死角になっている壁から姿を現したのは、1人の男。
「俺か?俺は、サカキだ。」
男はニヤリと笑みを浮かべた。
改めて思う
“そばにいて”
そう告げたのは
離れていたら、気づかないから
離れていたら、分からないから
離れていると、不安になるから
.