30 心の奥深くに眠る
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「…命拾いしたな。」
やがてキョウが静かに口を開く。
「お前が暖炉に火をつけたら、ガス状の毒が入った容器を投げ入れて爆発させるつもりだったのだが。」
「な、」
そう言ってキョウは紫色の容器をちらつかせた。
「…。その場にあるもの全てを使え、だったな。」
「ほう。何か手を思いついたようだな。」
キョウは相変わらず余裕の表情をうかべる。
敵が余裕から油断してくれるのはむしろ好都合…。
今に見てろよ、と思う反面、レッドは内心焦っていた。
使える能力は次で最後。上手くいかなければもう後はない。
自分でも全身に力がこもっているのが分かる。
深く呼吸をしてなんとか心を落ち着けて、壁に刺さったままのイミテの矢に目をやる。
「(いけ…!)」
剣をふり、小さな炎が2発、キョウに向かってとんでいく。
その炎は1つは彼の右側を、そしてもう1つは左側をかすめた。
「…最後の悪あがきか?少しは期待したんだが、見当違いだったようだ。もう遊びは終わり、!?」
キョウが身体にぼんやりとした熱を感じ、後ろをふりかえる。
すると、後ろの壁に刺さっていた矢にさきほどの炎が引火していた。
「!」
慌てて遠ざかろうとするが、それより先に炎が円を描いてキョウの身体を取り囲んだ。
「…っ、」
一方でレッドががくりとひざをつく。
その様子を見て火の輪の中心でキョウが笑った。
「矢への引火は操る炎を増やすためのものか。発想はいいが、これ以上の攻撃をする体力は貴様には残ってないようだな。」
「…」
図星だった。
能力がギリギリの状況で過去に一度もやったことがない炎の動かし方を行っているのだ。
体力的にも精神的にも、限界だ。
「(ここは俺が引き受けたんだ。かっこつけといて負けるなんて惨めなまね、したくない。コイツだけは、先に行かせない…!)」
まだ炎が足りない。
一瞬だけ。一瞬だけでいいから強い炎を出すことができれば…
策はあるのに、それを実行する力がないなんて。
『じゃあ、一緒に戦おう。生きて、グリーンと3人で、笑ってマサラに帰ろう。』
約束、したのに。
「くそ…!」
やりきれない思い抱えたまま、グッと剣の柄を握りしめた。
すると、その思いが伝わっていくかのように柄がじんわりと熱を持つ。
「!」
刹那、キョウを囲んでいた炎の輪がゆらりと動いた。
そのまま炎は円を描きながら天井に向かう。
火柱のように、炎が燃える。
「くっ…」
キョウが炎にあたるのを覚悟で火柱から出ようとするが、まるで炎はそれを追いかけるように彼に合わせて動きを変えた。
そして…、
ドン!!
そんな低音が心臓に響いた。
それを合図に、炎は次第に小さくなり、完全に消え…。
「…」
キョウが床に横たわっていた。
用心しながら近づき、完全に気を失っているのを確認すると、レッドは安堵のため息をもらす。
──上手くいってよかった…。
さっきの爆発は、キョウがちらりと見せたガス状の毒が原因だ。
それが炎と合わさって爆発した。
毒の専門家である彼が自身の毒で倒れたとは考えにくい。
キョウはそれを懐にいれていたから、爆発の反動が身体に直接伝わり気を失ったのだろう。
「(早くイミテ達を追いかけないと、)」
そうは思うものの
慣れないことをしたせいか、体力の限界がきたからか、足に力が入らない。
レッドは壁に背中を預け、そのままずるずると座りこんだ。
「…」
自身の炎で閉めた天井の扉に目をやる。
もうあそこからは抜け出せそうにない。
イミテ達を追いかけたいのはやまやまだが、今の自分の状態では敵に遭遇して戦える自信がない。
来た道を戻ってゴールド達と合流する方が賢いだろう。その方が敵も少ない。
「行くか、っ、」
立ち上がろうと足に力をこめたが、まるで感覚がなかった。
「は…?」
今度は立ち上がろうとするのではなくただ足を動かそうとしてみるが、結果は同じ。
意思が身体に全く通じない。
まるで自分の身体じゃないみたいに。
能力を使いすぎた余韻なのだろうか。
いや。それにしては、おかしい。
さっきまでは少なくとも足の感覚は完全にあった。
心なしか、一段と息が苦しくなった気がした。
心臓の鼓動も早い。
目が回り、焦点が定まらない。
視界がぼやける、
「(落ち着け…!)」
目を閉じ、深く呼吸をする。
症状は全く収まる気配はないが、少し心が落ち着いた気がした。
そして感じた、頬への鈍い痛み。
それはキョウに一番始めに手裏剣によってつけられた傷。
傷は浅いはずなのに、ドクン、ドクンとやけに痛みが響く。
「まさか…!」
数分前の彼との会話を思い出した。
『身のこなしはなかなかのものだが…相手の分析能力が足りないな。』
『どういう意味だ。』
『一度戦っていれば普通分かるだろう。』
その時は気にとめなかったが、今の状況と合わせれば、1つの仮説が容易にうかぶ。
─…手裏剣に、毒が仕込まれていた。
このままだとヤバい。
早く、誰かに伝えて─…
そんな考えが頭をよぎった直後、ぐらりと視界が揺れた。
体制を立て直すこともできず、レッドの身体はそのまま床へと倒れる。
急に不安感が彼を襲い、せめて剣が手元にあるか確認しようと力を込める。
だが、意思通り指先に力が入ったのかどうかさえも分からなかった──。
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