30 心の奥深くに眠る
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「(どうする…、)」
ポタリ、と汗が頬を伝って床に落ちた。
汗が流れたのは、動いたことだけが理由ではない。
焦り、緊張、…そして、動揺。
「っ、」
息をのんで、強く剣を握り直す。
イミテが言ったとおり使える能力なんてほとんど残っていない。
大きいもので1発、小さいもので3発程度だろうか。
能力が使えなくなれば接近戦でしか戦えなくなる。
武器に毒をしこんでいる彼(キョウ)に近づくのはあまりにもリスクが大きい。
それならば…、
「(何としても残りの能力で決着をつける…!)」
「クク…なんだ、その目。俺に勝つ気でいるのか?」
「当たり前だ。」
「見たところだいぶ疲弊しているようだが、大丈夫か?」
キョウはニヤリと挑発するような笑みを浮かべる。
「お前に心配される筋合いはない!」
「威勢がいいのは構わないが残念ながら俺は無傷。こんなハンデがある状態で倒せるとでも思っているのか?」
「…、」
無傷、という言葉にレッドは顔をしかめる。
ブルーがキョウの相手をして、戦っていたはずなのだ。
それなのに傷1つ作らずキョウがここにやってきたということは、彼女は……。
「(集中、しろっ…)」
無駄に不安を感じている場合じゃない。今はとにかく勝つための術を考えなければ…
「!」
ひゅっ、とレッド目掛けて手裏剣がとんできた。
レッドはそれをとっさに剣ではじく。
「身のこなしはなかなかのものだが…相手の分析能力が足りないな。」
「どういう意味だ。」
「一度戦っていれば普通分かるだろう。」
キョウは意味深な笑みをうかべ、自身も剣をぬくとレッドに向かって走り出す。
「(近づかせたらマズい…!)」
そうは思うもののスペースが限られた部屋の中では逃げることもできない。
やむを得ずレッドは剣を一振りして、自分とキョウの間を遮るように肩の高さ程度までの火柱をたてた。
「ほう…。ちょうどいい。俺自身、研究に携わっていたから興味がある。」
「研究…?」
「能力者を題材とした研究だ!」
キョウはバッとまた手裏剣を放った。
それは火柱を通り、火をまとってレッドに向かってとんでくる。
火柱でその一連の流れが見えなかったせいで反応が遅れ、レッドはギリギリのところでそれをかわした。
「つっ…、」
しかしそのうちの1つが当たってはいないが顔の真横を通り 、そこからとんだ火の粉の熱さに思わず顔をしかめる。
「ふははは!“新しい発見だ。能力者は自分の出した能力でダメージをうけることもある”。」
「…!」
完全になめられている。
レッドは剣の柄を握り、その火柱を消した。
「フッ…、懸命な判断だな。その場にあるもの全てを使え、というのが我らボスの教え。そのままならば良いように利用させてもらっていたところだ。」
「…。」
「あっさり終わってしまっては面白みがないからな。」
ニヤリとキョウが笑う。
彼はサカキの手下として戦っているのではなく、戦うことを楽しんでいるのだ。
現にこうしてどう戦うかレッドが考えているときも、キョウは攻撃する素振りは見せず品定めをするかのような目でこちらを見ている。
「(手加減されてるのは気にくわないけど、この隙を利用するしかない…!)」
レッドは冷静に周りを見回す。
この部屋の扉は1つしかない。
しかも自分と扉の間にキョウがいる状況…、一旦ここから離れることは難しい。
ゴールド達がナツメを倒して加勢にきてくれれば心強いが、通路には毒が蔓延しているからそう簡単にはたどり着けないだろう。
そしてブルーは…。
「(あと何か考えられる方法は…)」
部屋の至る所に突き刺さった矢が目に入る。
それはイミテがさきほどの戦いで放ったもの。
「(前に矢が切れそうになったとき、イミテが矢を直接剣みたいに持って敵と戦ってたっけ)」
キョウは武器として剣も持っている。
矢を武器にしては太刀打ちできそうない。
「(…他にこの部屋で使えそうなのは暖炉だ。だけど)」
能力で暖炉に火をつけて、それを元火として上手く操れば、残りの能力以上の炎は確保できるだろう。
しかし不思議なことにその暖炉には薪が数本しか見当たらなかった。
元々使われていなかったのか、使い終わったあとに足していなかったのか…。
どんな理由にせよこのままでは大した効果は期待できそうにないが…。
「まだ策は考えつかないのか?いつまでも猶予があると思うなよ。」
「(これしかない、か。)」
レッドが剣に力を込め、暖炉に向けて炎を放とうとしたとき…、
「「!」」
ゴゴゴ、という地鳴りが響いて、暖炉がある側の壁に亀裂がはしった。
直後、煉瓦づくりの暖炉はガラガラと音を立てて崩れおちる。
「!?」
自分のやろうとしていることがバレてキョウが妨害したのかと思ったが、見れば彼もまた警戒したように暖炉に目をやっていた。
しばらくの沈黙が流れたが、その後暖炉に全く異変はなかった。
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