30 心の奥深くに眠る
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「イミテさん…!大丈夫ですよ!早くここから出てさっきの部屋に戻れる道を探しましょう!」
いつもならばイエローを勇気づけ元気づけるのはイミテの役目だ。
それが今は逆にイミテのことをイエローが必死に宥めている。
妙な状況だ。
イエローにも余計な気を使わせている。
早く、泣き止め。
いつもの自分に戻れ。
そう思うのに、
依然としてイミテの目からポタ、ポタ、と大粒の涙がこぼれ落ちる。
「(私、なんで、)」
ブルーがキョウの相手を引き受けると言った時、不安に感じながらも彼女に任せることができたのに。
どうして、同じ状況になったのがレッドだとダメなのだろうか。
彼の強さは分かっているはずなのに。
「(私…、)」
レッドだと、じゃない。
レッド“だから”。
ブルーの時に感じた気持ちとは違う。友情とは違う。
「(友情じゃ、ない…?)」
昨日、ホテルでのブルーの言葉を思い出す。
『アンタ達、小さいときから一緒だったんでしょ?どっちが好きなの?』
『……恋愛感情をもったことはないよ。』
本当に?
その時の、自分の気持ちを思い出す。
『(いつだってそんな感情よりも、友情とか絆とか仲間といった気持ちが先にくる。)』
本当に、そうなの?
彼に、惹かれたことは、
一度もなかったの?
もしそれが本心なら、どうして今、こんな気持ちになってー…、
「イミテ。」
「っ、」
グリーンが力強い声とともにイミテの手首を握り直す。
その事にイミテは一瞬びくりと肩をふるわせ、グリーンの方を見た。
目にたまっていた涙がまたこぼれ落ちる。
「…(ああ、)」
それを見て、グリーンは思う。
あの場に残ったのがもしレッドではなく自分だったら。
彼女は、今と同じような反応をしていただろうか?
………いや。
「行くぞ。」
本当の意味でイミテを勇気づける言葉をかけているのは、いつだってレッドだった。
イミテの中の特別がレッドでもいい。
ただ。
今彼女の目の前にいるのはレッドじゃなくて、自分だ。
あの時のようにイミテが1人で決断してしまわないように。
背負ってしまわないように。
今度はしっかりとこの手を掴んで。
イミテのことを、導けるように。
「さっきの部屋に、暖炉があったことを覚えているか?」
「暖炉…、うん。」
「構造的にそこの壁なら薄くなっているハズだ。天井から出たら俺の能力を使ってその部屋につながるように道を造る。」
「グリーンさん、そんなことしたら建物が崩壊してしまうんじゃ…?」
「建物全体に負担をかけないように最小限の大きさで作れば問題はない。…イミテ。」
手に力がこもる。
「泣いている場合じゃない。」
その言葉に、イミテはうっすらと笑みをうかべた。
「相変わらず、だ。もっと違った言い方しないと周りに冷たい人って思われるって言ってるのに。」
イミテとレッドはグリーンの性格を分かっているから別に良い。
しかしグリーンは、旅の道中でイエローとゴールドにまで同じ調子で物を言うものだから最初こそ冷たい印象をもたれたことがあった。
いつだってそうだ。今も、そう。
グリーンの言葉はいつも、飾らない。
だからこそ、真っ直ぐに響く。
「生憎、レッドやゴールドとは違って俺には器用なことはできないからな。」
「…グリーンは十分器用だよ。」
いつも、周りを一番よく見ているのはグリーンだった。
状況を見て、個人を見て。
誰がどう動けば最善なのかを照らし合わせて見極める。
レッドがいつも真っ先に行動するからか、後ろでそれを支えるのはグリーンだった。
レッドが道を示して、グリーンが全体をそこまで後押しする。
そのためには全てを把握していなければいけない。
十分に器用な長所だ。
「私はいつも。グリーンの言葉で、頑張らなきゃいけないって思う。」
レッドの言葉は自身の気持ちを包み込むようで、それこそ温かな炎のようだった。
自分の心の中にある気持ちを自覚する引き金となるような言葉をくれる。
対照的にグリーンは追い風のようだった。
少し冷たい風はぴりぴりと肌にささるけれど、慣れてくれば心地良い。
光を見失って立ち止まらないようにと、見守っていて。
ぐん、と背中を押してくれる。
レッドとは対照的な強さを、グリーンの言葉から確かにもらっていた。
「まあ少し言葉足らずだとは思うけどね。」
ふふ、と笑ってイミテが言った。
その目にもう涙はない。
震えも、止まっている。
「ごめん。行こう。」
立ち止まっている暇はないと、今も教えてくれたから。
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