03 懐かしさに酔いしれる
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一方、牢獄では。
「もうすぐ…、かな?」
鉄の檻をはさんで相向かいに座っているイミテとタケシ。
薄暗いその部屋には光なんて差しこまない。
明かりは部屋にいくつか置いてある、不気味に揺れるれるろうそくのみ。
「もうすぐって、死刑が始まるまでってことか?」
「それ以外に何かあるとでも思った?」
これから死刑にされると言うのに、取り乱すわけでも泣きわめくわけでもなく、イミテはいたって穏やかな表情で言う。
「…助けがくるという意味かと…。」
「助けなんて期待してないし、来てほしくもないから。」
「………。」
タケシはそれを聞いてしばし黙り込み、やがて意を決したように顔をあげた。
「やっぱり…お前は、こんな王の勝手で死ぬべきじゃない。逃げろ。」
そう言ってタケシは壁にたてかけられていたイミテの弓矢をとろうと立ち上がったが…、
「…逃げられないよ。」
イミテのその言葉に動きを止めた。
「お前の能力なら、簡単に逃げ出せるだろう!」
「…私は、逃げるわけにはいかないの。」
「お前が逃げたら俺が罰せられるからか?」
「…さあ。」
イミテはクスッと意味深な笑みを見せる。
「別に死ぬのは怖くない。今までのこと思い出せば、全然。」
今まで、色々なことがあった。
それに比べれば、大したことじゃない。
一瞬…そう、ほんの一瞬ですむのだから。
「イミテ…。」
「なに?」
「未練はないのか?」
「………」
タケシにそう言われて、イミテの顔が一瞬こわばる。
未練がないと言えば、嘘になる。
……もう1度、人目でもいいから会いたい人がいるんだ。
あの笑顔に、温もりにふれたい、大事な人が…。
―……でもそんな望みのない希望は、抱くだけ無駄だ。
そう…期待するだけ無駄。
「ないよ。未練なんて。」
イミテがそう言って、キレイな偽りの笑みをうかべる。
ちょうどその直後、ウー、ウーと、警報が鳴り響いた。
「!侵入者か…!」
「行った方がいいんじゃない?」
「……。」
タケシはイミテをじっと見る。
まるでお前は本当にこれでいいのか、とでもいうように。
「……っ、」
自分の気持ちを見透かされそうな気がして、イミテは静かに目をそむけた。
タケシはポケットから鍵をだし、イミテに投げ渡す。
「ちょ…、コレ…、」
言いかけたイミテを無視して、タケシは何も言わず部屋を出ていった。
「気が変わったら逃げろってこと…?」
イミテは鍵を見ながらポツリと呟く。
「逃げるわけないじゃん…。」
それは、静けさが広がる牢屋にこだますることもなく小さく消えた。
逃げるわけない。
だって、逃げたって居場所なんてないんだから。
私が私でいられる場所は、もうどこにもないんだから。
イミテは静かに目をとじ、壁にもたれかかる。
「これでいいんだよね。お父さん、お母さん…。」
小さな呟きは、闇に消えた。
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