28 想いと共に脳裏をよぎる(後編)
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「…イミテ。ごめんな、ずっと。」
どう言えば伝わるのかなどは考えることもなく、ただすんなりとそんな言葉がのどの奥からでてきた。
ずっと、引っかかっていた感情。
「なんのこと?」
もちろん話しの意図が分からなくてイミテは聞き返す。
「俺、イミテにもう一回ちゃんと謝りたかったんだ。」
「…記憶喪失で、忘れてたこと?それはもう謝ってもらった。今さら気にしてないよ。」
謝られるようなことはそれぐらいしか思い浮かばない。
穏やかに笑っていったイミテに、レッドは「違う。」と彼女を見つめて言う。
「記憶のことじゃなくて、」
それよりももっと、
後悔していることは。
「一番辛いときに、そばにいてやれなかったこと。」
両親を亡くしてすぐに。
レッドもグリーンも、信頼できる者が1人もいない環境にさらされて。
彼女はどれほど不安だっただろうか。
故郷のために、自分独りが犠牲になって。
未来を全て、奪われて。
その小さな身体で、どれほどのものを背負ってきたのだろうか。
その繊細でとても脆い心を、どれほど痛めたのだろうか。
どれほどー……、
独りで泣いていたのだろうか。
頼れる人なんていなくて。
心の休まる時なんてなくて。
イミテには、安心できる場所なんてどこにもなくて。
何度だって、後悔して。
何度だって、世界を恨んで。
孤独で。
寂しくて。
それでも、独りぼっちで。
「1人で全部背負わせた。」
故郷を守る役目も。
あの日の悲しみも。
全部全部、彼女だけが背負っていた。
彼女だけに背負わせていた。
ずっと一緒にいたのに。
大切に思っていたのに。
絶対に守ると誓ったのに。
一番辛いときに、そばにいてあげられなくて。
守ってあげられなくて。
独りで泣かせてしまって。
「ごめん。」
……むしろ、重荷にさえなっていた気がする。
きっとそうだ。
彼女の足枷になっていたのは、自分自身、でー…
「本当に、ごめん…な。」
こんな言葉で、イミテが背負ってきた苦しみが消えるとは思っていない。
だけど、だからこそ。今度こそ。
「今度は絶対に、俺が守るから。」
もうー…、独りで背負わせたりしない。
手を引いて、導いていく。
明るい未来に…皆で。
……しかし、
「…守らなくていい。」
イミテが、呟くように言う。
語尾が少し震えているような気がした。
「守らなくていい。そんなことしなくていいから、だから…」
イミテはレッドの手をとり、そしてギュッと握る。
「(あ…)」
レッドはそこで気づいた。
イミテの手が、やはりかすかに震えていることに。
「お願いだから、いなくなったりしないで。」
泣きそうな表情。悲しげな表情。
きっとイミテ自身もこんなこと口にするつもりはなかっただろう。
けれど、守るなんて言われて、あの日の惨劇を思い出してしまったのだ。
“イミテ!よけろ!!”
あの日も、彼は自分を庇って大怪我をしたのだから……
「不安なの、何よりも。全員無事でいられるかどうか。誰も、怪我をしないで。誰も、死なないで。上手くいくのかどうか。」
さっきは笑ってごまかせた感情が、あふれでる。
イミテにとっては、自分が傷つくことよりも、大切な仲間が傷つくことの方が、何倍も何十倍も心を痛める要因で。
守られるなんてまっぴらで。
むしろ、彼女が皆を守りたいと思っている。
だから…
大切なものを失う可能性があるこの状況がたまらなく怖かった
「お願いだから、絶対に…そばにいて。」
思わず口にしていたのは、そんな言葉。
「…。」
黙ったままのレッドの反応を見て、イミテはハッとする。
そして感情的になってしまった、とひどく後悔してした。
「(ああ、もう…)」
温泉につかっていたときブルーに言われたとおり、今の自分はまさに“子供”だ。
不安なのは皆一緒なのに、自分だけそれを出してしまった。
弱音をはいたところで事態が良くなるわけでもないのに、こんなのだ嫌だ、とだだをこねてしまった。
本当に…子供だ、こんなの。
「、」
そんなふうに軽く自己嫌悪に陥っていると、突然、グッと身体が前のめりに引き寄せられた。
驚きすぎて、声すらでなかった。
そのまま必然的にイミテは、レッドの胸の中におさまる。
「分かった。」
グッと抱きしめているレッドの腕が妙に温かく感じる。
…安心、するー…
「じゃあ、一緒に戦おう。生きて、グリーンと3人で、笑ってマサラに帰ろう。」
「……うん。」
自分より頭ひとつ分低い場所から聞こえてきた声に、レッドはほっと息をつく。
今度こそ、大丈夫。
ちゃんと伝わっただろう。
一方で、抱きしめられたままイミテはぼんやりと思っていた。
やはり子供のままでいい、と。
“レッドとグリーン、どっちが好きなの?”
ブルーの言葉を思い出す。
そんなの分からない。
考えたくもない。
だから子供のままでいたい。
子供のままでいい。
何事もないかのように、何の変化も望まなければ。
ずっとこのままでいられる。
3人仲良く、変わることのない距離感で。
「(私は、今のままのこの空気が大好きだからー)」
ああ、それなのに今。
頬が、あついのは、
心臓が、うるさいのは、
「(私、は……)」
大切なものを失うくらいなら
大人になんて、なりたくないと
その感情に固く、蓋をした
.