28 想いと共に脳裏をよぎる(後編)
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その日の深夜。
女子部屋では、緊張していたとはいえやはりイエローが真っ先に眠りについた。
それを見てイミテとブルーはクスリと笑い、「私達も寝ようか。」とそれぞれ床について…そして数時間後。
ブルーの起きている気配がぷつりと消えたのを確認して、イミテはそっと部屋を抜け出した。
眠れなかったわけではない。
昼間騒がしかったせいか疲れはたまっていて、少し気を緩めればあっという間に睡魔はやってきただろう。
ただ、眠りたくなかったのだ。
今日が終わることに、心のどこかで恐怖感を抱いていた。
実際、そのまま眠り次の日になっていたならば、きっと彼女は自己嫌悪に陥っていただろう。
まるで、昼間ずっと友達と遊んでいて夕暮れ時になって家に帰らなければいけなくなった、小さな子供のような心境だ。
終わってしまうのが、寂しい。
そんな感情が心を支配していた。
「(少し、夜風にあたろう。)」
身体は疲れているはずなのに頭はやけにさえていて。
妙に高ぶったこの気持ちを落ち着かせるために、イミテはホテルに備えつけられているバルコニーへと出ることにした。
風よけのためか、普通と比べて少し重たくなっているその扉を開けると肌寒いくらいの夜風が身体にまとわりつく。
そのせいで意識が余計にはっきりとしてきて、心を落ち着かせるためにはきたのに逆効果だ、とイミテは思う。
やはり部屋に戻ろうという考えが一瞬頭にうかんだとき…
「(あ…)」
バルコニーの端の方に人影を見つけた。
いつもとは違う服装だったため(ホテルで用意されている洋服)反応が遅れたが、そこにいたのはレッドだった。
バルコニーの手すりに両手をついて、彼は街の方を向いているが、夜景を眺めているわけではなさそうだ。
星空を映したその赤みがかった2つの瞳は、なにを“視”ているのか。
ーそれに伴う、真剣な…表情。
「…。レッド。」
少しためらったあと、イミテは彼に声をかけた。
「イミテ!どうしたんだ?もう寝たと思ってた。」
それに気づき彼女の方を向いた彼は、いつもの明るい表情だった。
「レッドこそ。どうして?」
自分のことを打ち明けるよりも先に他人の様子をうかがうことは、軍人になってからの、もはや癖となっていた。
レッドは特に気にすることもなく答える。
「俺は…決戦前の気持ちの整理…的な?ははっ。」
「…そっか。」
寝つけないから、などとはぐらかされると思ったが、それは正直な答えだった。
「イミテは?」
もう一度、自分に向けられた言葉にイミテは一瞬考え、そして…
「もったいなくて。眠るのが。」
自身も本当のことを口にした。
…空気が、そうさせた。
レッドもレッドでイミテにはぐらかされると思っていたので両目を見開いて驚き、次いで聞く。
「もったいないって、何が?」
「この時間が、ね。」
イミテもレッドのように街並みに目を向けて、続ける。
「私も、さっきのイエローと同じこと思ってた。明日の戦い、勝てるのかって。…最悪、犠牲がでるかもしれないって。」
言い終えて、イミテは微笑をうかべる。
そう思っているのは自分だけじゃない。きっと皆同じだ。
だから、自分だけが不安を出している場合じゃなくて。
「たぶんそういう思いがあるから…今、この時間をすごくもったいなく感じてるんだと思う。」
それほど気にしていないフリをする。
何事もないように、笑う。
「…。」
レッドはしばらく黙って何やら考えているようだったが、すぐに笑顔を見せた。
イミテを安心させるための、優しい笑み。
「俺は…イエローのときは絶対勝てるなんて大見得きったけど。イミテにはそんな確信のないこと言ったって、何の支えにもなってやれないと思うから、さ。だから…、」
他人の心の支えになる言葉をかけるのなら、イミテの方がきっと向いているから。
「ただ、“今度”は1人じゃないってこと忘れないで欲しい。」
あの日からずっと独りで戦っていた彼女に、ずっとかけたいと思っていた言葉。
今度は1人じゃない。
皆ついているから。
だから、1人で不安を抱え込まないで欲しい、と。
「…うん。」
短く返ってきた言葉。
レッドは少し、不安に思う。
ちゃんと伝わっただろうか。
ちゃんとイミテの中の不安をぬぐいきれたのだろうか。
昔から彼女は独りで抱えこんで、泣きたいのに笑っている……、そんな性格だから。
だからこそ、苦しいと隠れて叫んでいる心に、自分達が気づいてあげなければいけなくて。
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