28 想いと共に脳裏をよぎる(後編)
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「バッカみたい!」
それが伝わったからこそ、ブルーはムキになって声をあげた。
演舞を見ていたレッドやイエロー、シルバーもそれに気づいてブルーに目をやる。
構わず、彼女は続ける。
「それでかっこつけてるつもり!?そんなの全然かっこよくないわ!」
分かっているはずだ。
明日は大きな戦いになることぐらい。
想像できるはずだ。
…最悪の場合、命の犠牲がでることぐらい、
そうなってしまったらもう伝えたくても伝えられないというのに。
何もなかったことにされてしまうというのに。
切なさに耐えてこらえなければいけない程の大事な想いなら、伝えるべきなのにー…。
ふと、ブルーの脳裏にとても幼い頃の思い出がよぎる。
“おまえ、おれのことすきだろ!”
憎たらしいぐらいの、自信過剰な笑顔と。
“な、なにいってんのよ!そんなわけないでしょ!”
素直になれなかった、幼い自分。
今でも思い出して少し切なくなる、それでも温かな思い出…。
大切なことを伝えられずに後悔することの悔しさを知っているからこそ、同じ後悔をしてほしくなくて。
だけど…、
「そんなつもりはない。そもそもお前にどうのこうの言われる筋合いはないと思うが?」
「…っ、」
目の前の彼にはそんな彼女の気持ちは微塵も伝わらない。
どうすれば伝わる?
何を言えば伝わる?
失ってから気づく、
もう手の届かない、もどかしさが。
もう一度口を開こうとしたとき、
ステージで踊っていた踊り子や他の宿泊客たちが、何事かと、動きを止めて彼らに注目していることに気がついた。
「…あ、お騒がせしてすいません。ちょっと酔っ払って悪のりしちゃいました~。」
ブルーは踊り子、そして他の宿泊客たちに、にっこりと笑顔を作る。
甘えた口調と可愛らしい笑顔に、主に男性客達の顔が緩む。…お手のものだ。
大したことではないと分かり、周りはまた各々の世界に戻った。
「…はあ。先に部屋に戻るわ。ここにいても気分が悪くなるだけだし。」
乾いた口調でそう言って、ブルーは席を立った。
「なんだよ、またくだらないことで喧嘩したのか?」
「ええ。とってもくだらない男のプライドにイラッとしただけだから、気にしなくて良いわ。」
「おいおい…」
明らかに違う意味が含まれた言葉に、レッドは眉間にしわを寄せる。
どうしてこの2人(グリーンとブルー)はこうも衝突するものか。
「そうそう。言っておくけど、アンタのはただ“逃げてるだけ”だから。」
ブルーは最後にそう言い残し、颯爽と部屋を出て行った。
「グリーン。いったい今度は何言ったんだ。なんでブルー、あんな怒ってんだよ?」
「…さあな。」
分かるハズがなかった。
そもそもグリーンは知らないのだから。
彼女が幼い頃の彼女自身と、自分のことを重ね合わせているなんて。
一方、イミテとゴールドは。
「ま、観光もよかったけど、飯うまかったッスね。さすが一流のホテル!」
バルコニーにて。
ゴールドがいつもと変わらない様子で、たわいもない話をしていて。
「普段は質素な手料理だもんねー。」
イミテもいつもと変わらず、調子を合わせて話をする。
「違いますよ!?決して普段の食事にケチつけてるわけじゃなくて、」
「あはは。分かってる分かってる。」
「ホントに分かってるんスかー?」
比較的穏やかな雰囲気で進んでいく会話。
それがもう数十分続いていた。
「あの肉料理に添えられてたヤツあったじゃん。あれが一番美味しかった。」
「え…俺、アレなるべく味わわないように丸呑みしましたよ。変な香辛料の味したんスもん。」
彼らをとりまくのは、生ぬるい空気。
「それが売りの料理なのに?むしろ私はお肉の方食べきれなくて残したけど。」
「イミテ先輩こそ、それがメインじゃないッスか!」
「ぷっ…お互い様だね。」
話が途切れたとき。
ふいに、イミテがバルコニーを縁取る柵に軽く背中を預け、必然的にゴールドと向かい合う体制になった。
その背景には、淡い光を放っている星が散りばめられた漆黒の空。
なぜかぼんやりとした月明かりだけが妙に目につき、それははっきりとイミテの輪郭を照らす。
いたずらにふいてきた風は、彼女の細い髪を揺らす。
「……やっぱり夜は少し冷えるね。」
イミテがまた、特に深い意味もない言葉をもらす。
「…っ、」
でも。
ゴールドはダメだった。
イミテを見ていたら…なんだか無性に泣きそうになってしまったのだ。
先ほどまでと同じようにたわいもない会話をすることができない。相づちすら返せなくて。
今、改めて気づいた。
いや、本当はとっくに気づいていた。
それなのに、認めたくなくて
ずっと無視していた。
彼女は…遠い。とても。
どんなに努力してもこの距離は縮まることはない。
手に入れることは、できない。
彼女が自分を見る目に、そんな感情が含まれていないことぐらい、分かっていた…のに、
彼女が出す答えなんて、分かりきっていたくせに。
「ゴールド。」
情けない顔をしているであろう自分に、彼女は優しく声をかける。
「ごめんね。」
イミテは、綺麗に笑っていた。
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