26 それが心の全て
夢小説お名前変換こちらから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぐるん、と、
突然、イミテの視界に映っているものが変わった。
それと同時に背中に軽い痛みと、堅くひんやりとした感覚を覚える。
そう…ゴールドに押し倒されていたのだ。
ーシャラン。
反動で音をたててイミテの髪飾りが取れ、ふさあ、と彼女の長い髪がひろがった。
淡い緑色をしたイミテの細い髪は、月明かりをあびてより滑稽につやめく。
馬乗りになったゴールドが、イミテの顔の横で彼女の両手をガシッとおさえつけた。
「子供でいいッスよ、べつに。」
挑発するように言う。
…どこか悲しそうな表情とともに。
「でも、それ以前に、俺…男なんスよ?イミテ先輩より力もあるし、こういうことだって簡単にできる。」
イミテは突然のゴールドの行動に驚いたのか、ピクリとも動かない。
髪が顔にかかっているのと、月が雲に隠れて暗くなったせいで、顔が見えない。表情が見えない。
イミテは何も、言わなかった。
「…驚いてるんスか?ひっでえな。俺だって先輩をおさえつけるぐらいの力あるんスよ。」
ゴールドは変わらず、悲しそうに笑って言う。
「このまま、襲っちまうことだって。」
「……。」
しかしイミテは終始無言のまま、口を開こうともしない。
肩も震えていないし、泣いているわけではなさそうだ。
ただ、静かだった。
「…俺に抵抗して、何も反応しないってか?」
「…。」
イミテは変わらず、無言を返す。
「おい、何とか言えよ!!」
ゴールドがついに荒々しく声をあげた。
ちょうど、雲に隠れていた月が、2人を照らす。
それにより、イミテの瞳がはっきりと映し出された。
「な…!」
思わず鳥肌がたった。
身が凍るかと思った。
イミテは、彼女が普段浮かべる優しい笑みからは想像もつかないような、とても冷たい目をしていた。
軽蔑するような、ひどく…ものすごく冷たい目。
かと言って睨みつけるわけではなく、静かにその心のうちにある何かをふつふつとわき起こしているような、そんな目だ。
「イミテ…先、輩…。」
ゴールドは思わず身震いした。
まるで心の中心に、そのまま一直線に攻撃されたようだった。
ドカッ!
突然、ゴールドが後ろに吹っ飛んだ。
「…う!げほっ!」
彼は腹に圧迫感を感じ、思わず咳こむ。
彼が顔をあげるより早く、
「何をしている。」
怒りに満ち溢れた声が聞こえた。
低い声。
「グリーン、先輩…。」
グリーンだった。
彼はイミテの前に庇うように立っていた。
ゴールドを一瞥すると、そっとイミテの背中に手を回し、体を起こさせる。
「平気か?イミテ。」
グリーンが聞けば、イミテは「…うん。」と頷く。
それを見て、彼はゴールドに視線を戻した。
「何をしていたと聞いてるんだ、ゴールド。」
「…イミテ先輩が俺を子供扱いするばかりだから、教えてやったんスよ!」
「ふざけるな。大体見ていたが、お前は感情まかせに行動しただけだ。子供丸出しだろう。」
「……!」
しずかな沈黙が辺りを包む。
「おーい?何かあったの、か……?」
そんな騒ぎを聞きつけてやってきたのは、レッドだった。
丁度、長い散歩から(マサラの住民がいたテントから)、自分たちのテントに戻る途中で、近くを歩いていたのだ。
「え…、」
ゴールドとグリーンが対峙していて、イミテは相変わらず座りこんだままで、さらには何ともいえない空気が流れている。
そんな状況を見たレッドは一瞬硬直した。
「何が、あったんだ…?」
レッドはもう一度聞く。
するとゴールドはバツが悪そうに顔を背けた。
グリーンがそれを見てため息をつき、レッドに言う。
「レッド。悪いがイミテを頼む。俺はコイツに話しがある。事情は…後で話す。」
グリーンに言われ、レッドはイミテを見る。
ただ、無表情のまま冷たい目をしていた。
「…分かった。」
レッドはイミテに近づき、「立てるか?」と聞くと自ら支えになってイミテを立ち上がらせた。
ふと、彼女の髪飾りが落ちていることに気づき、それを拾い上げる。
―――何があったっていうんだ…
レッドはもやもやとした気持ちをグッとおさえ、イミテのペースに合わせ、ゆっくりと歩きだした。
2人が見えなくなったところで、グリーンが1つ、大きなため息をつく。
「…今日の修行のときといい、最近は、お前のことを見直していた俺がバカだったな。」
グリーンが口を開くが、ゴールドは何も答えない。
…いや、答えられないのかもしれないが。
「何か言ったらどうだ?」
そんな彼を責め立てるようにグリーンが言う。
すると、ゴールドは悔しそうにキッと顔を背けて小さな声で言った。
「…グリーン先輩だって、そうじゃないッスか。」
「…何が。」
「アンタも、イミテ先輩のこと特別に思ってるくせに!レッド先輩に遠慮するふりして、気持ち伝える自信がないだけじゃねーか!」
荒々しい口調だったがゴールドの言っていることは図星であった。
.