26 それが心の全て
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“レッド!レッド!”
“さっきお母さんから聞いたんだけどね、オーキド長老のお孫さんが帰ってきたんだって!会いに行こうよ!”
“孫…?”
ああ、
温かい空気さえも、心地いい風さえも…
“3人でいろんなところを旅したい!それで、たくさん思い出をつくるの!”
“お!おもしろそうだな、それ!”
”俺をまきこむな”
ずっと続くと思っていた日常も、
覚えて、いない?
いや…、
懐かしい、気がした。
“なんで…お母さんと、お父さん…なの …?”
覚えている、気がした。
血の、におい。聞こえる悲鳴。
そんな中、繋がれた手の体温だけは、心地よくて。安心できるもので。
大粒の涙をポロポロと流して、すがるような瞳で自分に訴えかけていた、女の子…。
守りたい、
そう、強く思っていた気がする。
「…これが全てです。」
ニビシティを脱走した経緯など、一通り、イミテのことを話し終えたレッドはふう、と息をつく。
マサラの人達の悲しげな顔が、自分に向けられている。
そして…不思議なことに記憶喪失による頭痛は起きなかった。
記憶を取り戻したわけではない。
場面場面が断片的にうかんだものの、それが1つに繋がることはなかったのだ。
それと、
「…。」
もう1つ、何か大切な感情を忘れている気がした。
「どうかした?」
気づかれていないと思っていたのに、急に声をかけられて、ゴールドの肩はびくんとはねた。
観念して、ゆっくりと出て行く。
「気づいてたんスか。」
「気配がしたから。ゴールドの。」
「俺、気配消すのは得意なのにそうサラッと言われると傷つくッスよ…」
「まだまだ修行あるのみってことだね。」
イミテは楽しそうに言った。
「修行は終わったの?」
「はい。ついさっき。あ、グリーン先輩、着替えてから来るそうッスよ。ついでに汗流してくるっつってたから、時間かかると思います。」
「それで変わりにゴールドがかり出されたわけか。」
「うーん…正確に言うとちょっと違うんスよ。俺が、グリーン先輩にゆっくりしてきてくださいって進めたんで。」
「?」
不思議に思ってイミテが顔を上げると、ゴールドはニッと笑っていった。
「イミテ先輩と話がしたくて。」
「話し、ねえ。」
その様子から普通の世間話、というわけではないようだ。
ゴールドはどかっと、イミテの隣にあぐらをかいて座る。
「聞きてえな。と、思ったんスよ。イミテ先輩の、本心。」
「本心?」
「今、何を思ってるんスか。」
「今?…マサラが無事で良かったなあって。こんなこと聞いても、夕飯のときの繰り返しになるだけだよ。」
「俺が聞きてえのは本心だって言ったじゃないッスか。…広場で、噴水にもたれかかって死んでた軍人、イミテ先輩の両親の敵(かたき)なんスよね?」
ぴくり。
それを言ったとき、イミテの口元が少し反応したのを、ゴールドは見逃さなかった。
「イミテ先輩の心の中で引っかかってるんじゃないッスか?そのことが。」
「どうして?あの男は確かに死んでたよ。」
「そこじゃなくて、イミテ先輩自身でソイツを殺せなかったことッスよ。」
両親の敵。憎かったはずだ。
それなのにその男は、イミテ自身で決着をつける機会もなく、あっけなく死んでいた。
それも、誰が殺したかは分からない。
イミテにとってその事実は心残りになっていないのかと、ゴールドはそれを心配していた。
「悔しくないッスか?」
「べつに。あの男を殺すのが目的だったわけじゃないから。何とも感じてない。」
「ほんとッスか、それ?」
「本当だけど?」
「…ずいぶん冷めてるんスね。」
「割り切ってるだけ。興味ないの、敵討ちとか。」
「…ふーん。」とゴールドが返して、沈黙が続いた。
「じゃあ…、イミテ先輩か悲しそうな顔してるのは何でッスか?」
「…してないよ。」
「してますよ。いつもと違いますもん。」
「…。」
「自分のこと、マサラの人達に悪く思われてるからッスか?」
「…違う。」
「なら、レッド先輩が記憶を思い出しそうで思い出さないから。」
「違うって。」
「それならやっぱり、イミテ先輩の両親の敵が、」
「ゴールド!!」
ついにイミテが声を上げた。
心なしかいつもよりも低い声で続ける。
「違うって、言ってるでしょう?私は悲しくなんかない。」
「…。」
「…。」
そしてまた、沈黙が続く。
「(明らかに、いつもと表情…違うくせに。)」
ゴールドはふてくされながら心の中でつぶやく。
イミテはいつもと同じ、凛としていながらも穏やかな、そんな表情をうかべているのだけれど、
明らかにその表情にはいつもと違い、陰がある。
打ち明けてくれればいいのに。
そうすれば、自分が力になれるのに。
そんなもどかしさと、何もできない自分の非力さに、ゴールドは次第に少しだけ、苛立ちを覚え始めた。
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