26 それが心の全て
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オーキド博士の話によれば。
今朝。マサラの人間はいつも通りの生活を送るはずであった。
というのも、昨日、マサラの襲撃予告が新聞にのったわけだが、マサラに配布された新聞にのみ一切そんな記事はのっていなかったからだ。
政府が考えた今回の虐殺はイミテが逃げたことに対する見せしめなのだから、町の人が逃げてしまったら失敗に終わる。
まあ…妥当だろう。
気がつけば、だんだんと戦車の音が聞こえてきたのは、…午前8時頃だった。
マサラの者達は皆、この町が狙われていることは知る由もなく、事の成り行きを見守っていた。
そんな状況の中、以前、マサラを襲撃した男が戦車から降りて言ったのだ。
今度こそ『マサラタウンを滅ぼしにきた』、と。
男は騒ぎ出すマサラの住人に、昔と同じように、空に向けて銃を一発うって、『動くな。』と言った。
静かになった住人を見て満足げにほほえむと、
男はまず代表ということで長老、ということでまずオーキド博士を皆の前に連れ出した。
おそらく公開処刑のような形にするつもりだったのだろう。
そして、
剣が、振り上げられた瞬間、
カキン、とそれをはじく音がした。
オーキド博士に痛みはやってこない。
変わりに『うわあああ!』という絶叫が聞こえた。
見れば、オーキド博士を殺そうとしていた軍人の両腕は、数メートル離れた場所にころがっていた。
ドサリ、と軍人が倒れたことでたたずむ1人の男の姿が明らかになった。
黒いマントを羽織ったその男。
マントにはフードがついていて、その上布を巻いて鼻から下を隠していたため、顔は全く見えなかった。
背丈から、 レッドかグリーンのことが一瞬オーキド博士の頭をかすめたが、『おい。』と男が発した声色が、それを否定した。
『命がおしければここから逃げろ。』
先ほど、腕を切り落としたからだろう。
彼が手にしている剣からは、ポタリ、ポタリと血が垂れていた。
『マサラはわしらの故郷…大切な場所なんじゃ。見捨てることはできない。』
そう言って首をふったオーキド博士に、男はあからさまなため息をついて続ける。
『明日の朝、戻ってくるといい。全て終わらせておいてやる。そして、この先この町が襲われないように取り次いでやる。』
たった1人で、この人数を相手にできるのか。
そして、取り次いでやる、とは…彼は政府関係の人間なのだろうか。
『君は…』
オーキド博士の言葉を無視して、彼はスッと、軍人に再び剣を向ける。
『お前…誰だ?』
そのただならぬ威圧感に、マサラを襲った男が問いかけると、彼はバッと顔を覆っていた布を外した。
もちろん、彼はオーキド博士達には背を向けているため、顔は見えない。
『!!!』
が、彼の顔を見た男の顔は、驚きをおびたものに変わり、そしてみるみるうちに青ざめていったのが、すごく印象的だった。
『…さっさと行け!』
呆然と見ていたオーキド博士とマサラの住民に、殺気さえ感じるそんな言葉が放たれて、皆、急いでその場を後にした。
「わしはてっきり、お前たちの仲間かと思っていたんじゃが…その表情、心当たりはないようじゃな。」
「…ああ。」
いったい…誰なのだろう。
たった1人でマサラを守れるほどの実力があり、政府とも関係があり、何よりマサラを守る理由があるものとは…?
「(前に、マサラを襲った…男?)」
オーキド博士はレッドの記憶喪失による頭痛を考慮して、なるべくぼかして話をしていたのだが、やはり多少単語を出すことは避けられなかったらしい。
レッドは頭痛に顔をゆがめていた。
「博士。マサラの住民は、今どこに?」
「町はずれの河原じゃよ。彼らにはわしが明日の朝までに戻らなければ逃げるように伝えたが…正義感の強い者も多いからな。いつ、戻ってくるか分からん。」
「…それならはち合わせるとまずいですね。私達、そろそろ行きます。」
イミテは言い、弓をかついで準備をし始める。
「なんでッスか!?せっかくの故郷だし、軍はもう襲ってこねえんだかさ、もっとゆっくりしてても、」
「それは無理。彼らにとって私達…ううん、特に私は、憎むべき存在だから。ですよね、オーキド博士?」
オーキド博士は気まずそうに目をそらす。
「たしかに、今回の件でマサラが襲われたのはイミテが逃げたせいだと勘違いしている者も多い。」
「勘違いじゃないですよ。私が原因なのは確かです。」
「しかし、イミテ!お前はそのままだと死刑になっていたんじゃろう!?逃げて当然じゃ!!」
先ほど。彼らは自分達の旅の経過を、オーキド博士に話していたのだ。
そのときオーキド博士は…泣いてしまいそうな表情をしながら彼らの話を聞いていた。
「わしがそのことを住人に説明する。だからせめて、一晩だけでも、ここに…。」
「これ以上、マサラの人たちを混乱させる必要はないですよ。そのままにしておいてください。」
イミテは優しく…、笑った。
例え自分が悪く思われようと、それが故郷の幸せにつながるのなら。
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