26 それが心の全て
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「(なんで…!?)」
マサラタウンへと続く道を走りながら、口には出さないが、イミテの表情は不信感でどんどん険しくなっていく。
ここにくるまでまだ誰にも会っていない。
軍人はおろか、マサラの住人にも、1人も。
町の方から火薬の臭いはかすかに漂ってくるのに。
辺りはあまりにも静まりかえっていた。
「あ…」
目に入ってきた看板に、ズザア、と思わず足を止める。
“ようこそ!
始まりの町、マサラタウンへー”
白地に黒で大きく書かれたその文字。
どっ、と、懐かしさがこみあげた。
この町の長老…オーキド博士が作ったその看板。
専門の職人に頼めばいいものを、『この町のシンボルだからわし自身で作りたい。』と、せっせと時間をかけて毎日コツコツ作っていた。
レッドが興味津々で毎日一緒に様子を見に行っていたから、昔のことなのに鮮明に覚えている。
『博士ー!黒と白しかないじゃんか!看板なんだから、もっと赤とか青とか、目立つ色使った方がいいって!!』
そう口をとがらせて言ったレッドに、『バカもん!』と博士が一喝。
『いいか、レッド。この町の色は“白”。何色にも染まらず、凛とした美しさを持つ…それがマサラタウンなのじゃ。』
そう説明したオーキドに、レッドは『看板なのに、目立たなくて変なのー』なんて馬鹿にしていた。
しかし、出来上がった不格好な2色のみの看板に『まっ。博士にしては頑張ったな。』などと、レッドが呟いていて…。
その表情がなんだか照れくさそうで、頬は赤く染まっていたから、素直じゃないなあ、なんて笑ってしまった気がする。
「(ここから先が、マサラタウン)」
イミテは看板より先の地面に足を踏み入れた。
改めて、町全体を見る。
…数年ぶりに帰ってきた故郷(マサラタウン)は、ほんの数カ所煙が上がっている場所がある程度。
イミテの記憶の中にあるものと、全く変わっていなかった。
そう、あの日のまま、だ。
「イミテ!」
イミテがそのまま…何だか動けずにいる間に、後ろを走っていたグリーンが追いついた。
「っ…、もっと辺りを警戒して動け!ここは今、敵地も同然なんだぞ!!」
イミテの肩をつかみ自分の方へと向かせると、珍しくグリーンが声を上げる。
それだけイミテのことを心配しているのであり、それだけ大切に思っているからこそのことだろう。
「…グリーン。」
イミテはそれとは対照的な静かな声で言った。
「…何だ?」
「本当に…、マサラタウンなんだ、ね。」
そう言って一瞬目を細める。
「…っ!」
その表情は、何を表しているのか。
懐かしさでいっぱいなのか。
過去のあの日を思い出して、悲しみがこみ上げてきているのか。
自分達が生まれ育ったこの場所に、何か思う感情があるのか。
イミテの気持ちが読みとれなくて。
なんと声をかければいいのか分からなくて。
「…、」
グリーンは何も言えないまま、イミテの肩を掴んでいた手をゆっくりと離した。
そのとき…ぶわあっと、一陣の風が彼らの間を吹き抜ける。
「「!」」
イミテ、グリーンは互いに顔を見合わせた。
風にのって運ばれてきたのは…まぎれもなく血の臭い、だ。
「そんな…本当に、虐殺が…!?」
軍隊がマサラタウンを襲ってもう虐殺が行われたあとだとしたら…こんなに静まりかえっているのも説明がつく。
加えて、マサラの風景、空気に、血と火薬の臭い…
“あの日”が蘇ってしまって、イミテは自身の胸の前でギュッと拳を握る。
その手を、グリーンがパッととった。
「グリーン、」
「まだそうと決まったワケじゃない。確かめに…行くぞ。」
今グリーンの脳裏に蘇るのも、イミテと同じくあの日の記憶であった。
だからこそ、イミテの手をとった。
もう、1人で背負わせない。
自分達から離れさせない、絶対に。
独りきりで、泣かせたりなんかしない。
イミテとグリーンは血の臭いが漂ってくるほうに向けて、懐かしい道を足早に歩く。
手は繋がれたままだ。
ここでも、軍人もマサラの住人も、人は1人もいなかった。
広場に出たとき、血の臭いが一層こくなる。
そして…、
「…!」
その惨状に、2人は目を見開いた。
足の踏み場のないぐらいに倒れているたくさんの軍人たち。
息がないのは傷口から溢れ出る血の量からして明らかで、広場には血だまりができていた。
血で染まった、白の町ー…。
目を、背けたくなるような、惨状。
「あ…」
イミテが小さく声を挙げた。
広場の…噴水のところにもたれかかるようにして死んでいる1人の軍人。
かつてマサラタウンを襲い、イミテの両親を殺した、あの男だ。
「…。」
グリーンはギュッ、と繋がれた手に力がこもったのを感じた。
「(おかしい…)」
マサラタウンにこれほど腕の立つ者がいただろうか?
たとえ住人全員で襲いかかったとしても、ここまでは出来ないだろう。
一体、誰が…?
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