25 音をもてない言葉
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「そう…ですか。」
「はー!明日は頑張らないとな!」
レッドはニッと笑って言う。
イエローも「はい!」と返事を返したが、その心情は穏やかではなかった。
…なんだかひどく切ない。
レッドが、イミテが自分に力をくれると言うのならば、
イエローにとってもイミテはそうなのだが…、
同時にレッドもそんな存在だった。
そう、イエローにとってはレッドも自分に力をくれる存在。
いつだって、優しくて。
いつだって、強くて。
いつだって、かっこよくて…あこがれていた。
“怖い…よな?能力者なんて、初めて見ただろ?でも…君に怪我がなくてよかった”
初めて会ったときからそうだった。
巻き込んでしまったのは自分なのに、まず何よりも先に自分のことを心配してくれていた。
“一緒に行こう。イエロー”
衝突したこともあってけれど、
弱い自分を見捨てないでくれた。
必要だと、言ってくれた。
“本当にそう思ってるのか?”
シオンタウンの手前の町でグリーンと少し意見が食い違ったとき。
自分の気持ちに気づいてくれたのも彼で。
その言葉に救われていた。
“この世界の、差別も能力者に対する偏 った考えも、全部。きっと、皆が安心し て平和に暮らせる世界にするから”
“俺が、変えてみせる。この世界を”
その強い意志に魅せられて、力になりたいと思ったのは、彼に出会ってすぐのことだった気がする。
尊敬して、慕っていた。
それはイミテにも、グリーンにも、もちろんゴールドにも共通して抱いている気持ちなのだけれど、
少しだけ、違うところがある。
レッドの前では、“僕”ではなく“私”と言いたくなるときがあるのだ。
これが何を意味するのか。
彼に抱く本当の気持ちに、イエローはもうとっくに気づいている。
「(僕なんかに想われたって、迷惑なだけだろうな。)」
イエローはなんとなく、感じていた。
最初こそ分からなかったが、グリーンにレッドがイミテをどう思っているのかを言われた日から…
いや、むしろ日にちがたって皆で旅をしている時間が長くなるにつれて。
レッドの言葉や行動から、イミテを思う特別な気持ちがやんわりとだけれど伝わってくるような気がしたのだ。
まるで記憶とともに失われている思いが、徐々に…徐々に、あふれでているかのように。
さっきの彼の言葉だってそうだ。
何よりもイミテのことを考え思っているからこそ言える言葉。
ゆえに、自分の思いを伝えても、レッドは困るだけだと察しがついていた。
必ず、絶対に、彼の中の彼も知らない思いに自分は否定されてしまう。
「(だったら、このままでいい。)」
否、このままがいい。
何も知らせず。誰にも気づかれず。
いつも通りに、このまま皆で笑って過ごせればいい。
「イエロー?」
海を見つめたまま黙りこんでしまったイエローに、レッドが声をかけた。
「はい。(ねえ、レッドさん、)」
イエローは何事もないかのようにいつも通りに返事をし、変わりに心の中でつぶやいてみた。
「(私はアナタが好きなんです、よ。)」
せめて、伝えられない想いを。
翌日。
船が停まったのは昼過ぎだった。
予定時間よりもだいぶ早くついたのは天候が良かったから。
船が停まってすぐにレッド達は船から降りた。
そして今一度、マサラタウンの方角を見て唖然とする。
マサラタウンがあるであろう場所から、灰色の煙が上がっていたから、だ。
「そんな…!もう、襲撃が始まって…、」
「…っ!」
イエローが言いかけたのとイミテが走り出したのはほぼ同時だった。
「イミテ!!」
彼女に続いて、皆後を追う。
敵が潜んでいるなどの罠がどこかにあるかもしれない…、そんな考えはイミテの中からすっかり消えていた。
ただ、マサラタウンに住む皆の安全が気が気でなくて。
やみくもに足を動かしていた。
「止まれ、イミテ!」
そのすぐ後を追いかけているのはグリーンだったが、周りに注意を払いながら走っているためかあと少しのところで追いつけない。
自分の声も今の彼女には届かない。
もどかしく思いながら走っていた。
そしてその後ろをレッド、ゴールド、イエローと続いていたのだが…
「…、」
レッドは何か、違和感を覚えていた。
なんだ、これは…、
初めてな、ハズなのに。
「(俺は、知ってる…)」
マサラタウンに近づくにつれて、濃くなっていく火薬のにおい。
自分の前をグリーンが走っていく。
これと全く同じ状況を、自分は確かに知ってる。
どうして?
こんなの、初めてなのに。
“銃声だ!行くぞ!”
頭によぎった、グリーンの声。
そう、だ。
あのときは、真っ先に走り出したのはグリーンで、俺達はそのあとに続いて走っていって、
「、」
(あのとき?)
(俺達?)
なんのことだか分からない
誰のことを言っているのか分からない
でも頭に浮かんだ一場面は妙に現実味をおびていた
「く、」
頭痛を感じ、レッドはぐらりと一瞬よろめきながらも、足は止めずに走りつづける。
「レッドさん!?」
「どうかしたんスか!?」
すぐ近くを走っていたイエローとゴールドがそれに気づき声をかけるが、レッドは「…大丈夫だ。」と答えるのみだった。
「(なにを、)」
忘れている?
「(なにを、)」
思い出せない?
すぐそばにあるはずなの、に
分からない、なにも
ただ…“あの時”の記憶に続くのは、悲惨な惨状だった気が、した
助けて、と
声も出さずに叫んでいたのは誰?
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