25 音をもてない言葉
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コンコン、という扉のノック音に、イミテはカーディガンを上に羽織り、扉に向かう。
イエローとは夕食後、彼女の部屋で話をしたし、
レッドとグリーンとも先ほど話をして別れたばかり。
…だとすれば、残るはただ1人。
ちょうどそろそろ来る頃だと思っていた。
ガチャッと扉を開ければ、案の定、そこにはゴールドの姿があった。
「こんばんは。綺麗なお姉さん。俺と星空の下でロマンチックなデートでもしませんか?」
ゴールドは片膝をついてイミテの前へ右手を差し出す。
「クサいセリフが笑っちゃうぐらい似合わないね、ゴールド。」
「少しはのってくださいよ!イミテ先輩~。」
「…しょうがないな。」
フッと笑みを浮かべて、イミテは自分の手をゴールドの手の上に重ねた。
「エスコートお願いします。お兄さん。」
「ほら!星空!すごくないッスか!?いやー!晴れてて良かったッスねー!!」
甲板に出たイミテとゴールド。
ゴールドは少し大げさに両手を広げて上を見上げる。
「イミテ先輩も見てくださいよ!」なんて促すと、イミテはフッと特にはしゃいだ様子もなく笑みを返した。
「なーんだ。イミテ先輩は特に星には興味ないんスか。」
「星は好きだけど。こう見えてこれでもはしゃいでるって。」
「イミテ先輩。分かりやすい嘘はダメッス。」
「なんだ。さすがにバレるか。残念。」
「ちょ…!俺のこと何だと思ってるんスか!?」
ゴールドはむっとした表情になり、イミテはそれに対して楽しそうに笑うと再び口を開いた。
「すごいって気持ちよりも懐かしさのが勝って、ね。マサラから見える星空とそっくりだから。」
「イミテ先輩…。」
「マサラに近づいてる証拠だね。」と、イミテはふわりと笑う。
「…。先輩、全然元気ッスね?夕飯のとき様子がおかしかったから元気づけようとしたのに。」
「もうイエローにもレッドにもグリーンにも元気づけられたからね。」
「はあーあ。やっぱり先こされてたか…。」
ゴールドは少々口をとがらせる。
「元気づけようとしてたって、何言おうと思ってたの?」
「そりゃあ心に染みる言葉をドーンと!」
「なにそれ。…あ、じゃあさ。元気づけると思って、私の独り言黙って聞いててよ。」
「へ?独り言…?」
イミテはコクリと頷き話し出す。
「私、絶対にマサラを守るって決めた。」
「?」
「マサラに着くのはきっと明日の夕方で、政府が予定してる襲撃時間には間に合わないけど…でも、マサラの人達は今朝の新聞を見て避難するはずだから、きっと無事。」
イミテは淡々と、でも、力強い言葉で話し続ける。
「住人がいない町なんて襲う意味もないから、町にだって何も被害はない。全部、無事。…でも、もしも。もしもの時は、」
イミテは微笑みを浮かべて、続ける。
「私が命に変えてでも、守り抜く。」
月明かりに照らされた彼女は、やけに綺麗で。
「(イミテ先輩…)」
イミテの熱い思いがそのまま移ってしまったように、ゴールドの胸もドクンと熱くなる。
そして、
「(遠いなあ…ちくしょう。)」
そう、思った。
自分はレッドよりもグリーンよりも、そしてもちろんイミテよりも弱い。
自分に力があれば、もっと上手く力になれたかもしれないのに。
もっと上手く守れたかもしれないのに。
彼らに早く追いつきたいと思うのに、その後ろ姿は遠すぎて…もどかしくなる。
「(俺…)」
そこで気づいた。
自分が今もなお強くなりたいと思っていることに。
では、どうして強くなりたいのか。
憎んで、ずっと復讐したいと思っていた彼(ハヤト)も、真実が分かり、もうそんな考え全くない。
今、自分が強さを求める理由は、イミテの力になりたいから。ただ、それのみだ。
「だからゴールドも、明日はよろしく。」
イミテは、笑う。
グレン島で自分を慰めてくれたあの夜から、自分に対する彼女の反応は変わらない。
自分の過去を話したときもそうだった。
一段落したらいつも通り。
区切りがついたらいつも通り。
それが彼女の優しさだと、ゴールドは感じていた。
だってそのふるまいに、自分は少なからず救われているんだから。
「…イミテ先輩が命をかけてマサラを守るなら、俺は命をかけてイミテ先輩を守りますよ。」
「あはは。…やっぱりゴールドにはクサい台詞は似合わないから、その気持ちだけ有り難くもらっとく。命はかけないで欲しいし。」
「やだなあ、イミテ先輩。俺は、イミテ先輩に助けられたんスよ?それぐらいの恩返しをする覚悟、できてますって!」
まだゴールドが盗賊だったあの日。
イミテ達と出会わなかったら。
ハヤトと再会することもなく、彼の想いを知ることもなく、
ずっと憎んだままだった。
イミテ達と、否、イミテと出会えたから。
世界が広いことを知った。
憎むばかりでなくていいことを知った。
こんなにも、誰かを守りたいと、
愛しいと想う気持ちを、知った
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